アイディールと小さな革命

ばえる

プロローグ

 ~王都ベルグラディス・ミュラーゼ邸~



この世界は理不尽だ。

理不尽だらけだ。

おかしい、間違っている、狂っている。

変わるべきだと思うし、変わらなきゃいけないと。

そう言うと大半の人間はこう返す。


『そう思うなら自分で変えればいい、自分で行動を起こさなきゃ』と。


最もな意見だとは思う。

けれどこういった回答を返す人間はこの世界を理解していない。

例えば一人の人間がこれはおかしい、理不尽だと感じた事に対して国へ声をあげたとしよう。

結果はどうなる? 答えは簡単で何も変わらない、何も起こらない。

一人、もしくは数人の小さな声など簡単にかき消され実際に国を動かす人間には届くことはない。


それでは数十人、数百人集めたらどうだろうか?

多くの人間の目に触れることができ、もしかしたら国を動かしている人間の目にも映るかもしれない。

しかし、本当に伝えたいことは伝わらず悪い部分だけが取り上げられるのが現実。

ただの暴力、デモやテロとされ権力という名の暴力に潰されるだろう。

この場合も国や世界が変わることはない。


数千、数万、数十万人集めたら?

不可能、とは言わないけれど人数が増えれば増えるだけ統率するのは難しく、最悪の場合は内部崩壊を引き起こすだろう。

意志や覚悟の違い、差からしても現実的ではないと考える。


例え同じ発言をしても権力を持った人間が言うのと持たない人間が言うのでは違う。

どうして、なんで、なぜ、同じことを言ってるのに。

大体権力や地位とは何なのだろう。

勿論自分の力で、道を切り開き勝ち取った人間は尊敬する。

けれども、人は生まれを選ぶことはできない。

何もしていないのに生まれた時から大事に大切に育てられ、生きてれば偉くなる人間もいる。

私はそれを認めない。

どうしてそんな奴に様付けで呼んだり媚びることが出来るのだろうか、理解できない。

私が百という努力してもその人間に並ぶことは出来ない。

元々の始まりの場所が違うから。


平等平等いいながらこの世界は少しも平等なんかじゃない。

差別を否定しながら同じ人間なのに生まれや育った環境で人の見る目は変わっている。

なんて理不尽な世界だろう。

同じ人間であるならば始まりは同じ位置からであるべきで、そこから先は己が力で地位を手に入れていくのが本来あるべき姿ではないだろうか。


「リア? どうしたの? 難しい顔してるけど」


後ろから声がした。

声の主は、テュシア・ミュラーゼ。

私の唯一の仲間であり、友である。

彼女はこの王都ベルグラディスでも古くからある名家、ミュラーゼ家の娘であり、敷かれた道に沿っていけば後に跡取りとなるであろう。

だが、彼女は違った。

容姿、性格、知力、地位は勿論、魔力の扱い、戦闘、全てにおいて優秀でありながら、あの時王都の兵士から私を助け、自身の家に住まわせ今日まで匿ってくれた。

私は振り返り返事をする。


「シア……そう? 難しい顔してた? あ、それより準備が出来たの?」


テュシアは優しい笑顔を浮かべ答える。


「うん、バッチリ! でも……」


今度は数秒前の笑顔とは反対の暗い表情をしながらも私の目をしっかりと見て話すテュシア。


「この魔法を掛けたが最後、リアは術者である私以外にはリアだと認識されなくなる」


分かっている。それを承知の上でこの魔法を作ってもらったのだから。

だから私はすぐに頷く。


「うん、大丈夫。私が望んだこと。それに……シアには認識されるんだから」


テュシアは一瞬嬉しそうな顔をしたが、すぐに表情を戻し、魔法を発動する。

ほんの一瞬、私を中心に全てが白く光ったように見えた。

目を閉じ集中していたテュシアは目を開き再び私の目を見て話す。


「うん、問題ないみたいだね!」


この魔法で何かが変わる訳ではない。

変わったのは人からの認識だけ。

テュシアはそういえばといった表情で疑問を口にする。


「これからなんて名乗るのか決めてるの?」


私は決めていた名前を初めて口に出す。


「アイディール」



私は私の理想とする世界を実現する為に、必要であれば他者を利用し、邪魔者は誰だって殺す。

自分が理不尽だと思うことは全て壊せばいい。

これは、その世界への始まりの一歩。

リアディール・アラインはもういない――

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