第16話 勇者のセーブ8

森は日光を十分に受けていないだけあって、湿った空気が体を包んだ。


この聖界にあるのはせいぜい雨季と乾季と記憶しているが、


今は乾季のはず。





最近ここ一ヶ月で雨は降っていなかったはず、


故に趣味程度にしていた畑の心配をしていたくらいだが......


やたら湿気が多い。





本当に別世界だ。


と共に畑が今更になって心配になってきたが、








ガサッ





草原が揺れる音の方向に咄嗟に構える。


死闘は今日あったことだ、まだ神経は鈍っていない。





出てくるのならば分かりやすく飛び出して欲しいと、


願った通りの出現になりそうだが


まだ森に入って10分と経ってもいない。








街の人々がここの近くにさえ住みたくないのもひしひしと分かり始めてきた。


運良く熊は我が家を漁らなかったが、


普通は荒らされていて不思議じゃない。





そう考えると何故あの熊はあんな街中まで攻め入って来たんだ......?





目の前のことの外に意識を向けていると目の前の正体が出てきた。





ワニだ!








声も無くノシノシと大口を開けて迫ってくる








「くっ!」








もたもたと剣を引き抜くのに手間取りながら横に転がって避けた。








熊とは違ってスピードもそのまま突っ込んできたりはしない、


冷静に相手を分析出来そうだ。





そう捉えると剣より先にメンターをワニにかざして見る。





すると弾き出した情報はワニなんかではなくトカゲ、


オオトカゲだ。








これで噛まれることの脅威が下がったように思うが、


オオトカゲの怖さに一番にあるのは顎の力ではなく毒だ。





それも神経毒ではなく腐敗菌を増殖させる毒であり、


噛まれた箇所は壊死して切除する羽目になる。








というのを思うとまた口を開けて四つ足でノソノソ来る相手が、


毒持ちで食せない上にリスクの高いだけの敵だと分かった。








と、なると......








「俺は、逃げるッ!」








また噛み付き攻撃を飛んで回避すると猛ダッシュで森の奥の道を走って逃げた。








足には自信がある、それに鎧を着けているとは言え


俺の全速力に追いつけるものなどそういないだろう。





今回は情けなく撤退を選んだが相手が悪いから仕方ない!








そう都合の良い言い訳を考えつつ、





振り返ると距離を離したトカゲが不気味な煙を上げながら苦しんでいるようだ。








何事かと急ブレーキで足を止めてよく見てみると








「ぐ、ガアアア...!」





ほとんどの種が声帯を持たないはずのトカゲから呻き声が聞こえてきた。





異常な進化でもし出したのかと恐ろしくなってまたスタートを切って走り出した。








一体なんなんだ!?


何が起こったんだ?


あの熊と言い、この森は何かあるのか?!





そう、また振り返ると











遠近法では説明のつかない大きさになったオオトカゲが





俺とほぼ変わらないほどのスピードで距離をドンドン詰め、





足音をドカドカと鳴らして迫ってきていた

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