襲来



 白い空間から出た莉雄が目にしたのは、平屋の前に寝かされている刹那せつなだった。

 声をかけても反応せず、どこか苦しそうにしている。

 その様子を後から出て来た慶も見つける。


「ん? なんでこんなところに寝てるんだ? また暇で陽射しが心地よくて、ってんじゃないだろうし……なんか、嫌な予感がするのは俺だけか?」

「とりあえず、中へ運ぼう」


 莉雄は刹那に肩を貸し、なんとか立たせようとする。

 その時、大翔が莉雄の肩を叩いてそれを止めさせた。


「待て。神薙かんなぎはそのままにするんだ、莉雄」


 莉雄は不快感を顕わにした。


「キミが刹那を嫌いなのは知ってる。でも、どうしてそこまで嫌うのかボクには分からないよ」

「本当にそうか? 思い出せないか? 思い当たらないのか?」


 大翔はそう言って、刹那に触れようとする。

 莉雄はその時の大翔の顔に、敵意と怖気を感じ、刹那に肩を貸したまま大翔から一歩下がった。


「邪魔をしないでくれ、莉雄」

「大翔……なにをするつもりなの?」

「……目が覚める前に、処理する」

「処理? だから、それは駄目だって言ってるんだよ、大翔」


 二人がにらみ合う中、刹那がぽつりと、莉雄の名前を呼ぶ。


「莉雄……そこに居るの?」


 莉雄は刹那の顔を見る。

 顔色は蒼く、目はうっすらとしか開いておらず、唇が渇いて息もか細い。


「刹那、大丈夫? 何があったの?」

「莉雄……ここは?」

「ここは……なんでもない場所だよ。そう、どこにでもある場所だ」

「そう……なにがある?」


 莉雄は刹那の様子に違和感を感じ始めた。

 なにか、取り返しのつかないことが進んでいるような、そんな感覚がする。

 刹那がぼやくように言う。


「ここは、暗いんだ。なにがある? 音もくぐもって……暗いんだ。世界が、黒い」


 刹那のその言葉に、過去の自分の、スパルトイであった時の思い出が過る。

 あの、暗く、音がくぐもる世界。どこまでも、薄暗い黒い世界。莉雄の胸に沸々と嫌な予感がこみ上げてくる。


 枝折と葵もそこに加わるが、葵は大翔に近づかないように止められる。

 今一度、大翔が言う。


「離れろ、莉雄。そいつもはもう危険だ」


 枝折もそれに合わせるように言う。


「言世くん。あなたは覚えてない? アーキタイプのこと」


 莉雄は喉の奥から何かこみあげてくるような感覚を覚え、言葉を荒げる。


「なんで……関係ないでしょ、そんなの。今、関係ない!」

「関係なくない! だって、そいつは……」

「違う! 刹那は刹那だ。友達なんだ!」


 刹那の意識ははっきりしないようで、今一度気を失い、反応がなくなる。

 莉雄は今一度、刹那に肩を貸す形で立ち上がらせようとする。


「だから、彼を助けたいんだ……」


 直後、唐突に轟音と共に閃光が大翔へ迫り、大翔はそれを片手で弾く。どこか遠くで何かが爆ぜる音がする。

 見れば、手から放電をしているスパルトイが、全員から少し離れたところに居るのが見える。そのスパルトイの傍に、他にも複数のスパルトイが居るのも確認できる。


 そのスパルトイ、かつてビルの屋上で相対した電撃を放つ、アリーサと名乗ったスパルトイであることが分かる。彼女が、艶やかな声で言う。


「あら。全員揃ってるのね。都合が良いわ」


 その様子に莉雄は思わず恨めしそうにぼやいた。


「空気の読めない連中……」


 刹那を今一度、地面に座らせざるを得なくなってしまった。



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