第七話『彼らはキミの夢をみるか』

会話碌7



「さて、それじゃ、そろそろ本題というか……これはボクの、“個体”としてのお願いなんだ」


 薄暗い尋問室の中で、机の上の小さな灯りを挟んで、少女は所長代理ヴィルヘルム・フランケンシュタインに告げる。

 少女はパイプ椅子に座らず、机の前に立ち、手をお腹の前で組んで話をしている。


「今のキミたちが危機的状況ってのは、散々に説明したよね? それでなんだけど、近い先、保護してほしいモノがあるのさ。キミたちを必ず助けるはずさ」


 それは生き物なのか、とヴィルヘルムは聞こうとして言葉に詰まる。

 科学的に考えて、ケイ素生命体は生命ではない、という科学者としての意見が彼の言葉を阻害した。

 傍に居た研究員、アブド・ファハッドが察して代弁する。


「それはどこで、どんなヤツなんだ?」


 少女は特に気にする様子もなく答える。

 その様子にヴィルヘルムは安堵の吐息を漏らし、そんなヴィルヘルムの様子にファハッドは肩を竦めた。


「複数の人間を、自分の頭の中に閉じ込めるスパルトイが居るんだ。あれは、キミたちにとってはパンドラの箱だろうね。希望も入ってるけど絶望も入ってる」


 ヴィルヘルムは少女に言う。


「それを、我々に開けろ、と?」

「キミたちが開けない場合は、ハルモニアが開けるだろうね。希望を殺す形で」

「選択肢はない、と」

「むしろ、今、選択肢を持ってきたと言っても良いとボクは思ってるよ」


 ヴィルヘルムは考え込んだ。

 果たして、この申し出を受けて良いものかどうか。


 そして、決断に至る前に彼は少女に問う。


「確認したい」


 少女はヴィルヘルムに言う。


「何かな?」

「君は、なぜ人類に肩入れする? それは“君たち”の総意ではないのでは? もしそうなら、今までの話を鑑みるに、君は今後処罰されるのでは?」


 少女は微笑みながら言う。


「うん。そうだね。ボクは正直、人類がどうってのもどうでも良いんだ。ただ、今回言う保護してほしい人達の中の、ただ一人のためだね。一個人の為、って奴」

「なぜだ? どうしてそこまでの行動をとる? その人物と君に何の関係がある?」


 少女は視線を伏せながら、けれど微笑みを崩さずに言う。


「ハルモニアが恋する乙女なのを見て、正直ボクも羨ましかったのさ。だからかもね。……いや、違うな。ここはこう言うべきなんだろうな」


 少女は自分の胸を叩いて言う。


「助けるのは当たり前! ボクは、言世 莉雄大事な人の奥さんだからね!」


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