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 もちろん、その視線の先に何もない。

 大翔は言う。


「例えば……神様、とか。いや、神様を気取る隕石。鉱石型生命体。解りやすく言えば、


 慶が莉雄に対して、大翔に指をさしながら言う。


「ごめん、俺、こいつの話の規模がいきなり大きくなりすぎてそろそろ無理」

「それ、ボクに言う?」

「アメリカ映画の設定か何かかな?」


 大翔は慶の言葉を無視して言う。


「ギフテッドの能力もその“宇宙人様”の贈り物だそうだ。ギザの大ピラミッドの寸法を決めたり、ストーンサークルの配置を決めたりすることから、神話のあれこれをやったり、技術的特異点を作ったりってのも全部あいつらが原因らしい」


 慶は話の大きさにすこし疲れを覚え始めた。

 大翔は「大丈夫か?」と言いながらも話を続ける。


「話をスパルトイとの戦いに戻すが、そんな対人類殺戮兵器との戦争の中に、俺たちも参加してた」


 大翔は、ソファーに浅く腰掛け、前のめりになりながら話を続ける。


「葵とは元々同じ高校だった。学校生活の中ではそんなに仲が良かったわけじゃないんだが、戦争の中で彼女がギフテッドになってからだな。仲良くなったのは」


 葵はもう泣き止んでいたが、今もどこか辛そうだ。

 葵が言う。


「もう、色々……少しではあるけど、あたしも思い出してるよ。あたしは、能力が特異だっていうんで、プロミネンス、ううん、どっかの国とかからもなんか、担ぎ上げられちゃってさ。かくいうあたしも、それに応えようとしてたんだけど……でも、やっぱり疲れちゃってたんだ」


 大翔がその続きを話し始める。


「戦乙女として担ぎ上げただけじゃなく、戦争が終わった後の政治利用とかも考えた奴らが出てきたのさ。その時偶然、傍に居れたのが俺だった。ただそんだけだったんだと俺は思うんだが……」

「そんなことないよ。大翔は、あたしの支えだった。いつも無理なことを聞いてもらってたし、いざとなったら守ってくれてたし」


 大翔が莉雄の方を見ながら言う。


「莉雄と会ったのはその少し前だ。部屋が相部屋でな。実は、学生として一緒に座学に励んでたのは、に来てから初めての経験だったんだぜ」

「そうなの?」

「ああ。俺たちは、戦闘向けの能力を持たないギフテッドによるサポート部隊に所属してた。主に、戦闘訓練を積んだエージェントや戦闘能力があるギフテッドの補佐だな。俺は『記憶操作』の能力。動かなくなったスパルトイから記憶を抜き出して情報収集が主な仕事。とはいえ、触れないと意味が無かったから、毎回怖くて仕方がなかったけどな。莉雄の能力は『治癒能力』だったが、これも傷の化膿止めぐらいの力しかなかった」


 莉雄は疑問を口にする。


「でも、大翔は今戦えてるよね?」

「まあな。それは、俺の能力に関係してる。俺の能力は、主に『記憶操作』だが、これを……」


 大翔は浮いている鉱石型のスパルトイを指さす。


「彼女にかける。彼女のイメージの中の世界に対して、俺が干渉すると……俺は、この世界では全能になる。彼女がイメージできるレベルの世界の支配者ってレベルでな。まぁ、“同じような能力者が現れると途端に無力”になるが」


 慶は心の中で、髑髏スパルトイが言っていた世界の支配者というのが大翔だと理解した。

 大翔が、「話を戻そう」と言って続ける。


「ある時、スパルトイとの戦闘中に、莉雄が俺をかばってスパルトイに捕まる事態が起きた。残念ながら、俺にはどうすることも出来なかった」


 葵が大翔の言葉に続くように言う。


「大翔は、あの後すごく後悔して、荒れてた。作戦が終わった後、度々、一人で言世ことせくんを探しに出歩いてたりして、すごく危なかった。その時は生死不明だったから、猶更ね」

「だが、どこにも遺体は見つからず、逃げた痕跡もなにも無かった。ああ、今でも、度々夢に見る。後悔しなかった日は無かった」


 莉雄は思わず謝った。

 その時のことは、莉雄はまだうまく思い出せていないが、それでも莉雄は謝りたかった。


「ごめん。そんなことになってるって思わなくて……」

「いやいいさ。あー、良くはないが、でも、お前はちゃんと自分を取り戻せたんだ。それでいい」


 莉雄はぽつりぽつりと言葉を口にする。


「その後だよ。ボクは……スパルトイに改造されたんだ」


 そのことを謝ろうとする大翔を手で制止して言う。


「あ、いや、責めようって言うんじゃないんだ。ボクも、まだ記憶の整理がつかないだけで……」


 莉雄の脳裏に、黒く色がくすんだ情景が蘇る。


「あの時のボクは、自分に何が起きてたか、わかってた」


 誰かが命乞いを自分にするのを見下ろしていた。殺したくはなかった。だから殺した。

 誰かが死にゆく最中に自分を見ていた。自分の手で誰かを殺すなんて嫌だった。だから殺した。

 殺したくないと思えば、その心が殺意に変わる。あらゆる心が全て、殺意に変わった。他のスパルトイたちといる間だけは、その殺意も和らいだ。


「多分、ボクは他のスパルトイより狂暴だったんだ。他の存在よりずっと、まるで人間であったころの裏返しみたいに……だから、ボクは、あそこから……自分がスパルトイであるということから、逃げ出したかったんだ」


 スパルトイとして活動していた時の記憶もある。でも、それらは黒い視界の向こうだ。そうでなくても、うまく思い出せない。


「そして、ボクはスパルトイとして、大翔たちを襲ったんだ」


 正十二面体の淡い緑の光を放つ鉱石のイメージが脳内を過る。その鉱石の輝きが、心をぼかして、思考をにじませる。

 そして、糸織 葵を殺すことを命じられたのを思い出す。


「ボクは、ボクらは、人類の希望となっていた糸織さんを殺すことを命じられていたんだ。それこそ過剰な戦力でね。そうだ……思い出してきたよ」



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