所詮そこは夢の中



 去っていく莉雄と刹那を、少し離れた建物の屋上から、大翔は見ていた。


「いやあ、助かった。これ以上町の外へ向かって歩かれたらどうしようかと思った」


 その傍で、フードのついた襤褸を纏った、その襤褸の下を奇麗に着飾ったスパルトイが大翔の傍に居る。先日、公民館を襲ったスパルトイS1-k-P2reを殺したスパルトイO5-t-D3toだ。

 それは、決して、大翔の命を狙ってそこにいるのではない。

 スパルトイO5-t-D3toが大翔に言う。


「なら、神薙 刹那に意地悪せずにさっさと買い物を済まさせれば良かったのに」

「ええー、俺、嫌いな奴はどこまでも嫌いだからなぁ……嫌がらせってか、復讐はついしたくなるだろ。道に迷うぐらい可愛いもんさ」


 わざとおどけながら言い始めるも、その言葉は後半には強い憎しみがこもった言葉に変わっていた。

 大翔はスパルトイO5-t-D3toに言う。


「あ、一宮いちみや、明日は文化祭の片づけが学校であるぞ。来ないのか?」


 一宮と呼ばれたスパルトイO5-t-D3toは大翔に背を向けながら言う。


「普通、文化祭その物に呼んだりするんじゃないの? それに『先日まで学校に居なかった一宮いちみや 枝折しおりという女子生徒が現れた』ら、私なら警戒する。すごくね」

「そういうなよ、ここ数日は忙しかったろ? せめて片付けだけでも、っていう粋な計らいさ。なんなら、外見は俺が“誤魔化しをかけて”も構わないぜ」


 スパルトイ、枝折は大翔へ振り返らずに言う。


「あなた、本当にデリカシーに欠ける奴よね……」


 大翔は枝折に向き直らずに肩を竦める。枝折はその後は何も言わすにその場から去っていく。

 大翔は、楽し気に談笑をしながら去っていく莉雄と刹那の背を遠くから見ながら、誰にともなく言う。


「もうじきだ。もうじき……嗚呼、なんて、クソみたいな世界だろうなぁ」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る