エルフの女神様♡

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第1話、女神。

「──現代日本からの『転生者』どもときたら、図に乗りおって!」


 大円卓の最も上座の席で、最高位の女神が怒声を上げるや、たちまち賛同の声が、次々と聞こえてくる。


「まったくですよ!」


「ちょっと強力なチートを与えた途端、気が大きくなって」


「元々は、単なるヒキニートの社会不適合者のくせに」


「あくまでも我々女神のお膳立ての元で、勇者として活躍し、魔王なんかを討伐できたというのに」


「使命を果たして、異世界の住人たちから英雄として祭り上げられた途端、その気になって」


「しまいには私たち女神の言うことも聞かなくなって、そのまま異世界に居座って、『ハーレム』だの『NAISEI』だの『スローライフ』だのと、やりたい放題」


「……ううむ、今になって思い返せば、確かにその世界のネイティブの人間には解決できない問題が多々あったとはいえ、別の世界の人間の手を借りたのは間違いであったか」


「元々その世界にいた人間に、突然チート能力を与えたりしたら、周囲にどのような悪影響を及ぼすか、わかったものではありませんからね」


「そこであえて、別の世界の人間にチート能力を与えて、問題が解決するとともに、元の世界にお帰りいただこうと思っていたところ、まさか居着いてしまうとは」


「ほとんどの異世界なんて、現代日本に比べて文化的に遅れているから、封建的だったり治安が悪かったり、何よりも衣食住の生活環境が不便だったりして、かなり暮らしにくいはずなんですけどねえ」


「いやいや、さっきもどなたかおっしゃっていたように、転生者なんて元の世界では、ほとんど社会不適合者なんですよ? 誰があえて帰りたいと思いますか」


「そうですよ、少々不便でもそのまま異世界にいて、英雄扱いされて、ハレームでモテモテになったり、NAISEIでちやほやされたり、スローライフでのんびりしたりしたいに、決まっているでしょうよ」


「しかも、今もなお、続々と現代日本から多くの異世界へと、異世界転生が行われているといった有り様ですしね」


「ということは、『転生者』たちはこれからもますますと増え続けるばかりで、けして減ることはないってことですか?」


「何せたとえ問題が無事解決した後で、うまく『転生者』の厄介払いができたとしても、また何らかの理由で、『転生者』が必要にならぬとも限らないからな」


「──くっ、これではまさに、八方塞がりではないか?」


「我らはこれからも、勇者などの『転生者』の横暴に、耐え抜かねばならぬのか」


「これも、自分の世界の問題の解決に、よその世界の人間の力を借りようなぞとしたことへの、報いなのか……」


 その最上位の女神の言葉を最後に、しんと静まり返る、『大円卓の間』。

 いずれの女神の顔も、隠しようもない悔恨の表情に歪んでいた。

 ──否。

 ただ一人だけ、現在における絶望的状況をいくら語り聞かされようが、眉一つ動かさず、完全に沈黙を守っていた、最も下座の席の女神が、文字通り満を持したようにして、その真珠のごとき小ぶりの唇を開いた。




「──だったら、すべての『転生者』を、私の世界のほうで引き取りましょうか?」




 その瞬間、すべての女神の視線が、りんと鳴り響いた涼やかな声音のほうへと集中する。

 そこには、この全異世界選りすぐりの女神たちの集まりにあってもなお、尋常ならざる美貌の持ち主が微笑みをたたえて座していた。

 簡素な薄着のみをまとったほっそりと均整の取れた柔肌の肢体に、滝のように腰元まで流れ落ちている銀白色の髪の毛と、端整なる小顔の中で神秘的に輝いている翠玉色エメラルドの瞳。


 そして顔の両側で、真横に伸びている、細長く尖った両の耳。


「……の女神殿、それは、まことか?」

 他の女神を代表して恐る恐る問いかけたのは、上座の最上級の女神であった。

「ええ、私の世界でしたらむしろ喜んで、皆様の世界においてすでに役目を果たしておられる、『転生者』の方たちを受け容れることができますからね」

「そ、それは、助かるが、しかし、あなたの世界においては、人間ヒューマンという種族は……」

「──だからこそ、都合がいいのです」

 言葉途中でぴしゃりと言い切られ、面食らい口をつぐむ、最上級の女神。

「確かに私の世界では、エルフこそが支配種族ですが、人間の皆さんだって、エルフたちにとっては無くてはならない貴重な方たち。たとえ異世界の方とはいえ、粗略に扱ったりしますものですか」

「そ、そうであるか。うん、余計な心配をしてしまい、すまなかった」

 間違いなく女神としては遙かに各上であるはずなのに、それはまるでお追従でもしているかのような物腰であった。


 ──あたかも、女神とか超常的存在であることよりも以前に、生物としての、『絶対的強者』を、目の前にしているかのように。


 それでも、これまで最も頭を悩ませていた問題が、思いの外あっさりと解決してしまったことに、さっきまで緊張と焦燥とに包み込まれていた会議の場が、ホッと安堵の雰囲気に包み込まれたのは、当然の仕儀であろう。


 そんな自分以外の女神たちの歓喜の表情を見て取るや、満足げに頷き、己自身も輝くような笑みを浮かべながら、その絶世の美神は、心底嬉しそうに宣った。




「……ああ、ほんに、世界の司たる女神として、腕が鳴りますわね。──さあ、お集まりの皆様方、楽しい楽しい、『異世界転生物語』の始まりですわ♡」

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