第41話 斎

木々の隙間を縫って降り立つ。都を離すと、彼は急かすように斎の腕を引いた。


「裏口に案内します、こちらです!」


ぐいぐい引かれるままに、山道を走る。

天道の屋敷に近づくにつれて、嫌な気配も近づいていく。斎は感じたことのない殺気に肌を粟立たせた。


「天道はどこにいる」

「本丸の最上階の八階に。敵の靄は既に四階まで到達しているという報告を受けています!」


人間には見えないよう作用する結界が張られた城。最上階は都の言った通り八階で、外から見てもわかるくらい靄が進行していた。


「お前は他の鬼と同じように避難しろ」

「ですが! 僕には妙薬を守る役目があります!」

「避難しろ。例え宝の前にいても、お前じゃどうにもできない」


斎のはっきりとした言葉に、都は唇を噛んだ。そして、渋々頷いて裏口から出て行く。


それを見送って、斎は城を見上げた。

半分ほどが靄によって搔き消されている。靄の性質はわからないが、移動中に聞いた都の話によると、靄に巻き込まれた同僚は眠ってしまったという。


「催眠作用の靄か…」


自身に薄く結界を張り、本丸の窓から内部に侵入する。倒れている鬼たちは都の言葉通り、ただ眠っているだけのようだった。

靄を追いかけるように階段を駆け上がる。

ゆっくりと進行する靄の最先端はすぐに追い越すことができ、本丸の最上階に到着した。


「天道!」

「ッ、…なんだ、斎か。驚かせるな」


天道は一瞬刀を斎に向けたが、すぐに収めた。


「何があった」

「知らん。こっちが聞きたい」


溜め息交じりに肩を竦める巨漢の天道は、周囲から不興を買うような鬼ではない。普段から穏やかで、部下想いの鬼である。


「変なところで反感買ってたとかじゃないよな」

「お前は俺を何だと思っているんだ? 俺は至極まっとうな鬼の道を歩んできたが?」

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