第35話 斎と幸岐

幸岐の軽さに絶句した斎は、寝室の様子を見ながら洗濯や掃除をした。あの後、幸岐は早く起きたためかぱったりと眠ってしまった。


洗濯物を干しながらも、意識は幸岐のいる寝室に向けている。もう日が昇ってしばらくしたが、彼女が起き上がってくる様子はない。

洗濯が終わった後は食事でも作るか、と最後の手ぬぐいを物干し竿に掛けた。


「よっと」


空になった籠を洗い場に戻して台所へ向かう。道中にある幸岐の部屋の扉を少し開けるが、布団の山は微動だにしていない。

そっと入ってそっと顔を覗き込む。真っ青な顔だが、すやすやと寝息を立てている彼女を見て、ほっと胸を撫でおろした。


「粥か、雑炊か…」


どうせなら一緒に食べるか、と雑炊で決定しながら音を立てないように扉を閉めた。

その気配に、布団の中で幸岐が目を覚ます。


「…だんなさま…?」


布団から起き上がるが、既に彼は台所に入ったのだろう。起きた彼女に気づくことはなかった。

台所から聞こえる音に、斎が料理をしていると悟る幸岐。同時に、小さく腹が鳴った。


お腹はもちろん空いている。最近は感覚が鈍ったのか無視できるようになってきたが、身体が危険信号を発するかのように空腹を思い出す。


「…だめ、だ」


駄目だ。食べては駄目なのだ。食べたら不老不死の薬の効果が出なくなってしまう。

幸岐は焦った。焦って焦って、しかも空腹で頭は回らない。正しい判断なんて、できるはずがなくて。


そのまま縁側にあった草履に足を通し、庭へ出て、門へと駆けだした。

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