第23話 狛と木霊

瞼を射る光に、意識が持ち上げられる。狛は寒さを凌ぐ為、無意識に変化していたようだ。しかし、それにしても温かい。


『狼、狼』

『起きたか狼』

『お前らの幼馴染なら、随分前に飛んで帰ったぞ狼』

『狼?』

『おい起きろ狼』

『我らが暖を分けてやっていたが、お前これ以上ここで寝たら死ぬぞ狼』

『聞いているのか狼』

『やい、聞きやがれ狼』


「うっ、うるせえ~⁉ 耳元でがやがや騒ぐんじゃねえ!」


前足で地面を押して上半身を上げると、上に乗っていたらしい木霊がころころと落ちてきた。


『何をする狼』

『不敬ではないのか狼』

『やい、その背中に乗せろ狼』


やいのやいの騒ぐ毬のような見た目の木の精霊たち。狛は変化を解いて木の根元に座り込むと、体にあったはずの傷が痛まないことに気付いた。


『癒してやったのは我らだぞ狼』

『崇め奉れよ狼』

『その背中に乗せろ狼』


服を捲り上げると、本当に傷が塞がっていた。小さな傷は傷跡も残らずなくなっているが、大きなものは流石に無理だったようだ。塞がっているとはいえ、下手をすれば開いてしまいそうだった。


「ありがとうな、今度何か持って来よう」

『じゃあ、天狗の嫁御が作った菓子がいい、狼』

『頼んでくれ狼』

『背中乗せろ狼』

「わかったわかった。幸岐ちゃんに頼んでおいてやるから。あと背中乗るのは諦めろ。一瞬で振り落とされて終わりだろ」


背中に乗せてほしい木霊をつんと突いて、立ち上がる。体中の砂を払って、もう一度木霊たちに礼を言った。


山道を登る。

二人は何かを企んでいる。そしてそれには、不老不死の薬が関わっている。得た情報を渡すため、狛は重い足を進めた。

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