第9話 斎と笙花と狛

「そろそろお開きにするか」

「え~、せっかく斎と狛の関係も明らかになって面白くなってきたのに?」

「違う。違うからな幸岐。狛とは何もないからな。ていうかずっと否定し続けているだろいい加減にしろ。おいこの阿保を連れて帰れ狛」

「はいはい」


あれから更に二時間ほど飲んだ後、完全に出来上がった笙花を引き剥がしながら斎が時計を見る。短針は頂点を過ぎていた。


「ごめんね、長居して。幸岐ちゃんももう眠いでしょ…って」


拍の言葉が不自然に止まる。

斎にじゃれていた笙花がその視線の先を覗くと、そこには座布団の上で小さく丸くなる幸岐がいた。すやすやと寝息が聞こえる。


「…いつの間に」

「あっ可愛い~っ」

「うるさい見るな」

「てか斎気づかなかったの? 旦那として大丈夫?」

「お前が鬱陶しく絡んできてたからだろ!」

「だって小烏がもう飲まないとかいうからぁ!」

「おい二人ともうるさい。幸岐ちゃんが起きちゃうだろ」


二人が揃ってきゅっと口を結ぶ。


「…ま、みゆちゃん寝ちゃったんなら帰ろっか」

「そうだな。長居して悪かったな、斎」

「いや、いい。また来い狛」

「アタシは? ねえそうやってアタシをハブするの? あ、やっぱり二人はそういう…?」

「おい黙れ二度と呼ばねぇぞ」

「いーやーだー!! みゆちゃんといちゃいちゃしに来るから―!!」

「二度と呼ばねぇわ」


声量が大きくなってきたとき、幸岐が身動ぎした。

言い争っていた二人は、またきゅっと口を結ぶ。


「…起きないうちに帰るか」

「そーだね。じゃあみゆちゃん、またねぇ」


できるだけ音をたてないように、三人が移動する。

玄関で靴を履く背中を見て、斎が思い出したように声を上げた。


「あ、狛。逢引頑張って来いよ」

「小烏ぅ、今は逢引じゃなくてデートって言うんだよ」

「あ? あー、まあとりあえず頑張れ」


わからん、という顔をしてひらりと手を払う。


「まあ狛にはアタシがついてるから心配ないね!」

「頼むから笙は来ないでくれ」

「なんで?」

「普通そうなるだろ」


拍が全力で首を振る。喚く笙花を引き摺りながら、二人は外に出る。

ばさっと、羽音がした。


「じゃ、いつも通り家まででいい?」

「ありがとな」


上着の裾を押し上げて、笙花の腰に蝙蝠のような黒い羽が生えている。振り返った色違いの瞳は、先ほどより色濃く輝く。

羽を羽ばたかせて、地面から離れた笙花は、狛の頭上に移動した。そして、彼の腕をつかんだまま飛翔する。


「気を付けて帰れよ」

「ああ。じゃあ、また連絡する」


二人は夜の空に消えていった。

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