第8話 斎と狛

「…なあ」

「何?」


笙花の背を見送った斎は、猪口を持ったまま徐に口を開いた。狛は視線だけを斎に向ける。


「…最近、あの二人、仲良いよな」

「あー…確かに。まあ、女の子同士だから話しやすいんじゃない?」


その答えに、斎は眉を顰めた。


「だからって、…仲良すぎだろう…」

「ああ、なんだ嫉妬してるのか」


斎が残った酒を一気に煽り、かんっと卓袱台に叩きつけた。


「幸岐が変な影響受けたらどうする」

「斎が爆発する」

「真面目に聞いてるんだが」


空になった猪口に酒を注ぎながら眉間の皺をさらに深くした斎に、狛は苦笑いした。斎と言い幸岐と言い、お互いのことが大好きなのに、どうして相手のことを信用しないのか。


「ごめんごめん。まー大丈夫でしょ、笙花だし」

「…」


しかし、斎は納得がいっていないようだ。閉められた襖の向こうをじっと見つめる。


「そんなに心配なら聞けばいいじゃん。何話してたのって」

「俺にできると思うか」

「できない」

「だろう」


はあ、と重く息を吐く斎。なみなみ注いだ酒を全部、飲んだ。


「…もしかして、斎…酔ってるだろ…」

「酔ってない」

「酔っぱらいはみんなそう言うんだよ! もうやめとけ!」


空になった斎の猪口を取り上げる狛。斎は据わった眼で猪口に手を伸ばす。

からら、と襖があいた。


「…」

「…」

「…お邪魔した?」

「待て待て待て待て笙! 頼む違うんだ待ってくれ!」


すっと目を逸らした笙花。片手で隣にいた幸岐の目を塞いでいる。


「みゆちゃんの教育に悪いでしょ!?」

「違うんだって話を聞いてくれよ!」

「おい狛。酒」

「お前はもう飲むのやめろ!!」

「あ、旦那さま、お酒でしたら此処に」


斎の目が、幸岐に向く。

狛に凭れ掛かったまま、彼は固まった。


「…目醒めたろ」

「…もう今日は酒飲まない…」

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