新しい足





 ズキ、と足の付け根の辺りが痛んだ。

 ゆっくりと目を開けたメリーは、キョロキョロと目だけを動かす。

 見慣れた白い天井。そして、ベッドの脇には、見慣れない機械。そこから伸びる管が自分に繋がれている。


「……目、覚めた?」


 聞き慣れた声。顔だけを声の方へ向け、しばらく声の主を見詰める。

 まだ目が覚め切っていない様子のメリーにフレンが歩み寄り、目線を合わせるようにベッドの脇に座った。


「足、痛くない?」

「……いた、い」

「大丈夫? ゴーラ先生呼んでもらおうか?」


 首を傾げながら問うフレンに、メリーはふるふると首を横に振った。我慢できないほどの痛みではないのだ。だから、わざわざ父親を呼んでもらうのはなんとなく気が引けた。


 それに、痛いということは、きっと上手くいったはずなのだから。


「あぁ、メリー。目が覚めたのかい」


 鍵の開く音と共に扉が開く。その扉から覗かせた顔を見たフレンは、慌てて自分のベッドへと駆け戻って行った。

 白衣を着たメリーの父親が、彼女のベッド脇へと座る。


「パ、パ……」

「なんだい?」


 目が覚めたばかりだからなのか、掠れた声で父を呼ぶメリー。苦しげに目を細めると縋るように父を見あげる。


「あ、し……足が痛いの……すごく痛い……」

「ああ、可哀想に……でもね、メリー。痛いのは、手術が上手くいった証なんだよ。薬を打ってあげるから、しばらく我慢しておくれ」


 そう言った父が、注射器を取り出す。そして注射器の針をメリーの腕へ刺した。

 ちくり、とした痛みを感じメリーは目を閉じる。


「それじゃあ、また明日診にくるからね。安静にしてるんだよ、メリー」


 優しく頭を撫でる父の言葉にメリーは頷く。鞄を持って部屋を出ていくと、カチリと聞き慣れた鍵の音が響いた。

 メリーはぎゅっとかけられているシーツを握りしめた。


 痛い、痛い、痛い、痛い。

 新しい足をつけてもらうのは、こんなにも痛みを伴うものなのか。


 メリーは無意識に足がある部分を撫でた。その手に感じる違和感。

 痛みを堪え、もう一度、今度は確かめるように足に触れる。

 手の平に伝わってくる感触は、明らかに人のそれではない。慌ててシーツを捲り、包帯の巻かれている自分の足を見る。


「な……に、これ……」


 ぐるぐると包帯の巻かれた不自然に細い足。包帯の先――そう、人間ならばつま先があるはずの部分から見えている黒い蹄。

 メリーは包帯に手をかけるとそれを外しはじめる。慌てて制止するフレンの声にも、彼女の手は止まらなかった。


「………………ぁ……」


 現れたのは、見慣れた足ではなかった。



 包帯の下にあったのは






 細くて











 茶色い

























 馬の脚だった。









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MERRY 闇璃 @Utatane-Anri

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