いい夢を




「メリーちゃん、面会よ」


 部屋に入ってきた看護師の言葉にメリーは首を傾げた。パパが会いに来てくれたのよ、という言葉を聞くと目を輝かせる。


「パパに会えるの、久しぶりだわ」

「そうね。じゃあ、面会室に行きましょうね」


 ぬいぐるみを抱きしめて無邪気に笑うメリーを、看護師が車椅子に乗せる。メリーと目が合ったフレンが複雑そうな顔をして目を逸らした。


「フレン?」

「あ……いや、なんでもない。行ってらっしゃい、メリー」


 困ったように笑いながら手を振るフレンに、メリーもいってきますと手を振り返した。











「新しい足?」


 先生と父親が並んで座っている。2人の前に座らされたメリーは首を傾げ、先程告げられた言葉を繰り返した。それに対して頷いた父親が口を開く。


「また歩けるようになるんだよ。メリーもちゃんと自分の足で歩きたいだろう?」


 優しそうな笑みを浮かべ問う父親に、今度は逆側に首を捻る。

 自分の足で歩きたい、のだろうか。確かに車椅子では不便だなと思うことも少なくなかった。

 考えて、考えて。でも明確な答えは出なくて。


 メリーは考えることを放棄した。


 医者である父親の言うことだ。きっと、言う通りにするのが正しいのだろう。


「パパの言う通りにするわ」


 目を細め発せられた言葉に、父親は目を丸くした。先生は口元をに笑みを浮かべる。


「どうやら決まりのようですね。手術室はうちのをお貸ししましょう。構いませんか、ゴーラ先生」

「それはありがたい。病室もお貸し願えますか。術後は日に1度、私が診に来ます」


 話の意味が理解出来ないメリーを置いて、どんどん話は進んでゆく。

 言葉を交わす2人を交互に見て、メリーはもう一度首を傾げた。ぬいぐるみを抱きしめる手の力が僅かに強まる。


 間違えた気がする。


 そんな気持ちが、彼女の中にあった。しかしそれを、頭を振って否定する。この考えは、良くないことだ。


 どれくらい待っただろうか。話を終えた2人がメリーへと視線を移す。

 先生が立ち上がると、車椅子のブレーキが外された。


「それじゃあ行こうか」

「先生、どこへ行くの?」

「新しい足をつけてくれるお部屋だよ」

「今日、新しい足が貰えるの?」

「ああ、そうだよ」


 車椅子を押す先生と話をしながら、メリーはぬいぐるみを抱きしめた。少しだけ怖い。

 彼女の気持ちを知ってか知らずか、先生が彼女の優しく頭を撫でた。


「目が覚めたら全て終わってるからね」


 車椅子を停めた先生がメリーを抱えベッドへ寝せると、ぬいぐるみを預かり腕に針を刺す。その痛みにメリーが不安げな表情を見せると、また頭を撫でた。

 程なくすると、メリーの目が焦点を失い始める。



「おやすみ、メリー。いい夢を」







 意識を失う前に聞いた先生の声は、今まで聞いたことがないくらい楽しそうな声だった。




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