1-12

 食事が終わり、ひな子さんが帰ってから、真紅郎さんに僕は今日父に聞いたことを話した。

「ふうん、なるほど。でもなんなんだろうね?善意会の真の他の目的って」

「わかりません。そのうち話してくれると思います」

「そうか。わかったよ」

 思案顔で真紅郎さんは頷いた。僕は例の話題を切り出す。

「それで、『蒼の怪盗』って知ってますか?」

 真紅郎さんはそれを聞いて、少し考えている風だったが、急に何か思い立ったのか顔を上げた。

 そのまま真紅郎さんは席を立ち上がって「ちょっと待ってて」と言い残し、リビングを離れてしまった。なんだろうと思っていたが、程なくして何か手にして戻って来た。ノートパソコンだ。

「ごめんごめん。実はぼくも正直『蒼の怪盗』なんて知らないからさ、ネットで調べてみようかなって思って」

 そう言いながら、パソコンを立ち上げる。やっぱり、父さんは真紅郎さんに無理に押し付けたらしい。

「インターネットで『蒼の怪盗』なんてヒットするんですか?」

「んー、もしかしたら……あるかもじゃない?」

 そう言って、真紅郎さんは起動させたパソコンをインターネットに繋ぎ、キーワードを打ち込み検索をクリックする。意外にもかなりの数がヒットしていた。

「あ。結構あるもんだね……じゃあ、手始めにウィルペディアの検索を見てみよっか」

 ウィルペディア、とはネット上で誰でも編集できる百科事典サイトである。

 真紅郎さんは「蒼の怪盗—Willpedia」をクリックする。そこにはこう書かれていた。


「蒼の怪盗 正式名は怪盗そうせき。一九六五~七七まで関東で主に活躍していたが(一九七七年当時三十五歳)、突然姿を消す。その当時、かなりの話題性を持っていたため多彩な新聞、週刊誌などに彼の記事が数多く記載され、ニュースにも幾度となく取り上げられた。彼がこれほどまでに有名になった理由は諸説ある。まず一つに、十二年もの長い間活躍し続けたことが挙げられる。もう一つには、彼には本物の美術品を狙わず、贋作しか盗まないという特殊性があり、それも話題の起因となっている。……」


「……昔の大怪盗が、記憶を呼び戻すキーワードだったって訳か」

 真紅郎さんは納得したように頷いた。

「もっと深い意味があると思いますか?」

「どうだろうね?あんまり深い意味は無いと、ぼくは思うけどね」

「そうかも、しれませんね」

 僕は、少し歯切れ悪く言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る