第30話 最後の抗い



 運命が書き換わった。


 意識が覚醒すると同時に、周囲を見回す。


 ここは、キルトスの町の外だ。


 周囲には、何千人もの兵士達が控えている。


 ここは、おそらく魔人復活の時間がずれた世界なのだろう、


 俺が望んだ通りなら、この世界の俺はシオンを説得し、詳しい情報を聞き出しているはずだ。


 そして今討伐しようとしているところのはず――


 視線をずらす。


 俺の傍には。


「ラックス様?」


 見慣れた女性が、シオンがいた。


「しおん、しおん……」

「どうされましたか?」

「なんでも、ない」


 すがりついた俺の態度を見て、彼女は勘違いしたのだろう。

 俺の背を優しくさすってくる。


「さすがにラックス様でも、緊張してしまいますよね。大丈夫ですよ」


 その声は柔らかく、自信に満ちている。


「私の事を許してくださり、また傍においてくださると言った事を嬉しく思っています。何があっても私がお守りしますからね」


 きっと彼女は自分の秘密を多くの人に打ち明けたのだろう。

 記憶の中であんなにも、自分の殻に閉じこもっていた彼女が。


 成長してみせたのだ。


 だから、俺はシオンから離れて浮かんできそうになっている涙をひっこめた。


 彼女が頑張ったのなら俺も頑張らなければならない。


 皆を助けるために。


 聞くに、シオンと同じ境遇の者達はこの世界でもやはり死んでしまったようだ。

 だが希望は残されている。


「来たぞ!」


 決意を新たにしていると、離れた所にいた父が叫んだ。


 その傍には母も寄り添っている。


 やはり両親もそろってこの場にいたらしい。

 

 場の空気が引き締まる。


 集まった兵士達は一斉にとある方向を見た。


 そこには、いた。

 やつだ。


 死と破壊をまき散らす怪物が、魔人が姿を現した。


 集まった兵士達は、さっそく魔法を放つ。


 すべての属性をあわせた、魔法攻撃だ。


 それらは一つの巨大な塊になって、魔人に着弾。


 魔人は、勢いに押されるように、その場から一歩下がった。


 いくつもの属性を束ねた魔法の力は、長く続く光線の様になっている。


 兵士達の力は、途切れることなく魔人にぶつかっていった。


「これで、たおれてくれ!」


 たった数秒が長く感じる。


 一秒、二秒、とじりじりと時間が過ぎて言って、心臓が潰れそうな思いを味わった。


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