第26話 どうして



 どうしようもなくなった俺は、シオンの様子を窺っていた。


 しっかりもののお姉さんという感じで、いつも俺を助けてくれた彼女。


 こんな事なら、出会わなければよかったのかもしれない。


 知らない人間だったなら、俺はもっとうまくできたんじゃないか?


 運命を攻略するのはもっと簡単だったんじゃないか?


 シオンは勝手に死んで、俺達は何とか生き延びる事が。


 できたんじゃ。


 いや、だめだ父には立場がある。


 自分だけ助かろうとするわけがない。


 両親を見捨てるのか?


 それに……。


 今さら、他人だった方が良かっただなんて、そう思うのはやっぱり悲しすぎる。


「しおん」


 名前を読んでそっとその頬に触れた。


 するとなぜか、知らない記憶が流れ込んできた。


 シオンの胸のあたりで、きらきらした何かがひかっている。


 命のかけら?


 もしかして魔人の力が、スキルに影響しているのか?


 流れ込んでくる記憶は、この屋敷に来たばかりのシオンの記憶だった。


 今よりちょっとだけ若くて、ちょっとだけ愛想がなくて、ちょっとだけ冷たい感じがする彼女。


 窓やガラスに映った彼女の顔はいつもこわばっていた。


 母に「どうしてそんなにいつも辛そうな顔をしているの?」と問いかけられている。


 彼女はそれに「そんなつもりはありません」と答えた。


 おそらく、自分の未来を悲観しているのだろう。


 一人になったシオンは、「どうして自分がこんな目に」と嘆いていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る