第23話 分かり切った敗北



 あれこれ考えていると状況が変化したようだ。

 しかし、それは良い方ではない。

 悪い方に。


 馬車の外が一気に騒がしくなった。


「魔人だ!」

「逃げろ!」

「殺されるぞ!」


 騒ぎが起きて、人の列が乱れる。

 人々はパニックになり、統制の利かない集団になってしまっていた。

 みな、好き勝手に走り始めていた。


「くっ、もう来てしまったのか。やつはどこに行くつもりだ。せめてこの町は見逃してくれれば……」


 混乱する人々を前にして、父が苦悩している。

 人々に冷静な行動をとるように呼び掛けるが、それは意味をなしていなかった。


「こうなっては仕方ない。いざという時の兵士を動かして市民達を守らねば」


 しかし、すぐにやるべき事をまとめたようだ。


 馬車にいる俺達に声をかける。


「シオン、前もって言っておいた通りだ。ラックスを頼む!」

「はいっ、分かりました。この命に代えても屋敷まで送りととどけます」

「頼む」


 父は、それだけを言ってどこかへ走り去ってしまった。


「とうさま……しおん。おれたちは」

「大丈夫ですよラックス様、屋敷へ帰りましょうね」


 不安そうな俺にシオンは微笑みかけてくるが、それで大丈夫だとは思わなかった。

 運命を改ざんする前に見た光景が、脳裏によみがえる。


 父は死ぬ、他の人も、ここの人だって大勢。


 魔人には、かなわない。


 なら、ここまでだ。


 分かっているなら、彼等を二度も死なせる必要はない。


 俺の立てた推測通りなら、きっとまたスキルを使えるはずだ。


「しおん、ごめんな」


 自分の勝手で運命を捻じ曲げてしまう事を謝りながら、俺はつい少し前に胸に抱いた怒りの感情を胸に灯した。


 許さない。


 シオンを、父や母を、大勢を殺した魔人を。


 絶対に許さない。


 あの時感じた憤怒の感情をできるだけ強く思い出す。


 そして、何を書き換えるのかも具体的に、イメージした。


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