第19話 非情な事実



 早くこの危ない場所から逃げよう。

 そう思って俺は、シオンの元へ急ぐが、彼女は拒絶の言葉を放った。


「いけません。こちらに来ては!」


 そんな事できるわけない。

 シオンはずっと俺の傍にいて、俺の事をきずかってくれた大切な存在だ。


 家族の様な人だと思っている。

 今さら、彼女を放って自分だけのうのうと屋敷に帰るなんてできない。


 だから俺は、一緒に帰ろうとそう口にしようとしたのだが。


「ラックス様! 逃げて!」


 上を見て、はっと何かに気が付いた様子のシオン。


 彼女が叫び声をあげて、数秒後。


 まばゆい光が降り注いだ。


 衝撃があり、俺の体が吹き飛ばされる。


 走ってきた距離数十メートル分を戻された。


「うわぁぁぁぁ!」


 風にあおられるまま転がった俺は、痛みにうめきながらも立ち上がる。


「ぐっ、しおんは?」


 彼女の姿を探して、周囲を見回す。

 光のすぐ下にいた彼女が気がかりだった。


「しおん! ……っ!!」


 彼女は、いた。


 けれど、それはもはや人とは言えないような姿をしていた。


「あ、あぁ、うそだ」


 絶望に膝をつく。

 助かるとか助からないとかそういう問題じゃない。

 もはやあれは、そういった次元じゃない。


 だって、原形をとどめてないのだ。


 これでは、元がシオンという人間だったかすら、分からない。


「そんな……」


 何かに変わり果ててしまった骸から、光のようなものが浮かび上がって邪神の方へ向かっていく。


 おそらく命のかけらなのだろう。


 邪神はこちらを見て、口をあげていた。

 その口の中に、光があふれる。


 俺の事を殺す気だ。

 けれど、恐怖はなかった。


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