第26話 次の目的地

「天上族?」

「そうだ」 

 

 場所は船の資料室、俺はそこに置かれた丸テーブルにつき、対面に座るマリンと話していた。

 周りにはそれなりの数の本棚や資料棚があり、大量の本や資料が存在する。少し埃っぽくなってきたのでそろそろ掃除するかと思ってるが、今日は別の用事があった。

「それが、次の目的地にいる人達なの?船長」

 マリンは少し首を傾げて、俺に答えを求める。

「そういうことだな。彼等は【アスカール】と呼ばれる島国に住んでいて」

 俺は、なるべくわかりやすいように説明していく。

「才力を使うことに長けた種族。身体的特徴としては、背中に光る模様がある」

 そう、天上族とはそういった特性を持っている。彼等はほぼ全員が才力を使え、それ故に詳しい。俺が求める力、才力について。

 リアメルでの才力取得に失敗した以上、頼れそうな所はもうあそこと【第零異海】しかない。第零異海の方が、才力について発達してると思うが……。

(俺は既に)

 アスカールに、行ったことがある。そもそもフィアに辿り着けたのも、そこでの情報のおかげだ。

 結局俺のミスで、台無しになってしまったが……。申し訳ないな。

「ふーん。そこでジン太さんは、才力っていうすごい力を手に入れるんだね」

「手がかりだな。正確には」

「へえ、ふーむ……」

 似合わない神妙顔で、腕組み何かを考えている様子。落ち着きなく、足をぶらぶらさせている。

「詳しい者に聞くか、資料を漁るか……どっちにしても、簡単には行かないだろう」

 あそこに存在する書物の中には、まだ俺が探ってない部分がある筈だ。ヒントでもなんでも良いから見つけられれば。

「……でも、そこに行く為には」

「前も話したが、あの霧に入らなければならない」

 あの霧。ミスト・ガーデン。いつから其処にあったのか、それさえ定かではない。普通の方法では絶対に突破不可能、摩訶不思議な霧。

「なんか怖い……お化けとかでないよね?船長」

 マリンは、少し顔を強張らせている。左腕を掴み体を震わせている様は、本当に怖がっていることを示す。

「お化け……は」

 確かあの海には、【霧の七不思議】があったな……。

 

 ――彷徨う、幽霊船だとか。


 ――霧の、怪物だとか。


 ……ただの噂だ。下らない。俺は昔から、そういうのには動じないタイプなので、霧の海を航海してて気にしたことはない。むしろ座礁しないかとか、現実的な問題が重要だ。


 などと。

 渇いた意見は、持ってない。


 霧の海の七不思議っ!!まだ見ぬロマン!!未知の道!!ひゃほおおおおおおおおおおおおおっ!!

「――なに、ただの噂さ」

 胸中で荒れ狂う荒波を抑え込み、俺はさわやかスマイル・大人のスマイルでクールに言った。怯えるマリンを、無駄に怖がらせるのも良くないしな。


【暑苦しくて、気持ち悪い】

 

 俺を縛る鎖が、この言葉。地味にショックだったこの言葉を受けて以来、俺は人の前で暑苦しさを抑えることにしている。

「噂って!?気になるよっ!?」

 少し椅子を引いて、恐怖を露わにするマリン。

「大丈夫だ。問題ない」

「むむむ、なんだか怪しい」

 そこから一転、椅子から身を乗り出して詰め寄るマリンを、クールになだめる俺。マジでクール。

「……本当かなあ。信用していいの?信用するよ?」

「信じろ。愛する船長の言葉を」

 きりっと、顔面。ドンと、胸叩く。

「……分かった。信じる。お馬鹿な船長の言葉を」

 とても真面目な顔で、我が仲間は言い切りやがった。あまりに自然だ。

 流石はマリン。純粋で、大変よろしい。……後半の言葉はスルーしよう。

「船長って、時々だけどすごいしっかりしてるもんね。駄目人間って感じなのに!」

「違うな。俺は、人よりちょっと臆病なだけだ」

「違うの?それって」

「違うよ。全然違うよ。一緒にしないで」

 まったく心外だ。俺を、ぐうたら人間みたいに言うなよな。

「霧の海を越えたら、次は異海なんだよね」

 マリンは椅子に戻り、そんな事を口にした。事前に、異海のことは教えていたな。

 

(異海。霧の海から行ける、全ての異なる世界・海のこと)


 霧の海にはいくつかの出入口が存在し、そこを通ると別世界が広がっている。

 そこは人種だったり、文明だったりが異なり。


(更に、才力も異なる)


 その異海でしか、習得できない才力。

 逆に、そこでは習得できない場合も。

(……他の異海なら)

 俺にも習得できる才力があるんじゃないかと、思った時もある。

 なんにせよ、まずはあの場所に行かないとな。

(次の目的地、アスカール)


 今度こそ、何かを掴んでみせる。


「ごめん船長……なんだか眠くなってきた」

「そうか。じゃあ今日はここまでで」

「うん。ありがとう船長!」 

 俺の言葉にマリンは椅子から降り、床に立つ。

「……」

 背を向けて部屋から出て行こうとする彼女に、俺は声をかけた。

「マリン!」

 一応、確認しておこうと思って。

「?、なに、船長?」

「……本当に良いんだな?このまま俺達に付いていっても」

 さっきの怯えた様子を見て、そう決めた。

「もちろんだよ」

 しかし、返答の言葉には怯えがなく。彼女は背を向けたまま。

「置いていかれる方が、百倍怖いから」

 

 きっぱりと言い切り、ドアを開け、部屋から去っていった。

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