第24話 台無し

「お前にとっての大切な人って、誰だ」


「父親か?母親か?友達か?恋人か?」

 暗く嫌な雰囲気が、その場にはある。

 そこには、外の光が存在しなかった。

「それとも存在しないか?それはとても寂しいことだ……」

 当然だろう。何故ならここは、地下牢だ。

 ロドルフェの王城地下に存在する、冷たい牢獄。

「人と人の繋がり、互いに支え合い、励ましあい、困難を乗り越えて、我等は――」


「すいませんガルドスさん。何しにきたんですか。大した用事がないのなら、正直邪魔なんですが」


 牢の前に立つ男の指摘に対して、ガルドスは数秒固まり。

「……うるさいよ。今はオレが話してるんだよ。真面目にな。台無しだよ」

「なんの話がしたいんだか、意味不明なんですが」

 雰囲気をぶち壊す、しょうもないやり取りが繰り広げられる。

 繰り広げますは、一人の牢番と、一人の大男。二人は向かい合い、話している。

「それは、お前の理解力が低いからだろ!!オレの高尚な話は、凡人には理解できないんですよー!!」

「いや、アンタ自身も理解してないだろ。ノリで喋ってるだろアンタ」

「ぎくっ」

「わざとらしい」

 わざとらしいポーズをとるガルドスに、牢番の男の冷静な突っ込みが入る。

 どんどん壊されていく、シリアスな雰囲気さん。もはや修復不可能だろうと、推測される。

「……ふふふ。あまり調子にのるなよ……!!オレはロドルフェ第三部隊、総隊長ガルドスだぞ……!!」

「隊長さん、負けたんですよね?ノードスさんから聞きました」

「!?、あいつっ!!言うなってっ!!絶対に言うなよってっ!!言ったのにっ!!」

「それだと言うだろ、絶対っ!」

 二人は元々知り合いなのか、漫才のように陽気に語り合っていた。

「ちくしょうっ!!」

「泣くほどですか!」

 繰り返される、ボケとツッコミ。ゆるんでいく空気。

 地下牢に似合わない雰囲気が、その場を侵食して行き。


「――わたくしの前で、そうやってふざけられる面の皮の厚さ……。流石ですわね、ガルドス」


 今度は、その空気が壊される番だった。増悪と殺意がたっぷりと塗られた声に思わず身震いした牢番は、背後の牢の中を伺った。

(……怖いな、本当)

 牢の中にはベットが置いてあり、そのベットに座りながら、ガルドス達を睨みつける一人の女性。

 リアメルを滅ぼす前に、既に拉致されていた天の使い。

「おっとっと、随分とご機嫌ななめだな。その部屋は、お気に召さないか。せっかく、招待したのになー」

「自由を奪って、むりやり連れて行く招待?斬新ですわね。笑えます」

「良かった!存分に、笑ってくれ!出来れば参考までに、何処が面白かったのか教えて!!」

「……冗談も、分かりませんの?」

「そうしないと、大人しく来てくれないからだろー。オレだって、こんな事はしたくないんだよねー」

「……フ、フフ。笑え、ますわね……!!」

 女性は笑う。とても恐ろしい、邪念に満ちた笑みだ。

 牢番は、部屋の温度が下がったように感じられた。

(綺麗な人だが……)

 天の使い、フィア。

 ほどかれた、綺麗な栗色の髪は手入れをしていないせいで傷み、ぼろぼろで簡素な囚人服を着て、肌には汚れや傷が見える。

 そんな状態でも美しいと感じさせるのは、瞳に宿った青き輝き故か。

「本当に……!人の神経を害するのが、上手いわね。ガルドス……!」

「はははは!!悪かった!!お前も混ざりたいんだろう。囚われのお姫様は、退屈だもんな!突っ込み役やる?ハリセン渡す?」

「……忌々しい。その喉を潰したい気分ですわ」

 憎しみを向けられてもまだふざけ続けるガルドスに対して、油を加えた火の如く増悪を増して、ぶつけ続けるフィア。彼女の膝に乗せられた両手が、握りしめられる。

(喉を潰すか……完全な強がりってわけでもないから怖いな)

 フィアの強さ。捕らえるのも困難だったと、牢番は聞いている。その為にいつもより、地下室の警備は増えていた。両手足に鎖を巻き、才力を封じた状態でも、完全に取り押さえられる自信は彼にない。

 これで外からなんらかの要因が加わったら、どうなるか分からない。

「怖いこと言うなー!……でも、流石に前よりも堪えてるみたいだな」

「……!!」

「流石にショックだよな。民から、罵倒と共に滅んだなんて聞かされれば」

 ガルドスの言葉に、フィアの心は揺らいだ。瞳の輝きが、それを証明する。

 同時にガルドスの視線が、包帯が巻かれた彼女の両手に向けられた。

「ああ……」


 ――やっぱりと、ガルドスは思った。やはり彼女のような人間には、こういう拷問が効果的だと。


 それを再確認する為に、彼はここを訪れた。

 そして確認できた今、どういう風にその光景を見せつけるか、それをガルドスは思案する。

 

 とてもとても、冷たい顔で。

【地下牢奥に存在する、地獄に通じる階段を見遣りながら】

 フィアの心を、切り崩そうとする。


(恐ろしいな……)

 それを牢番は、背筋を凍らせながら見ている。

(しかし……)

 見ているのだが、大きな違和感を彼は感じていた。

 違和感の原因は、彼の姿。


(――――なんで、海パン一丁なの?この人)

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