第19話 王城にて

 才力解放【リミッター・ブレイク】。


 才力とは、当然誰でも使えるものではない。

 使えたとしても、自然に扱えるようになるか、誰かに扱い方を教わるか。どちらの場合も、そこに至るまでに不運が起きる可能性もある。

 才力は危険なものだ。

 故に、強力な戦闘手段だ。

 その手段を手に入れられるリミッター・ブレイクは、当然欲する者が多く。


 リアメルの東に位置する強国、【ロドルフェ】も例外ではない。


「――ご苦労だったな。ガルドス。吾輩は嬉しいぞ。それでこそ、我が軍である不滅成滅人(イリシュバル)の武士よ」

 灰の髪の男が声を発する、其処は広い部屋だった。

 高い天井に吊り下げられたシャンデリアが部屋を照らし、入口から玉座まで続く赤い絨毯が、訪問者を迎える。

 現在の訪問者は、巨体の男。ガルドス。

 それと相対するのは、ガルドスに負けない程の巨体を持った、ロドルフェの王。

 王は玉座に座り、力強い獣の像に挟まれながら、黒色の瞳でガルドスを見ている。

「あははは、オレの仲間は優秀ですからね!当然ですよ!!ジンカイ王!!」

 力強く返事する、ガルドス。彼は、誇らしそうに自分の仲間を称える。雄々しい声が、部屋に響き渡った。

「当然か。しかし、リアメルにはジーアとかいう、強力な戦士がいた筈」

 リアメル最強の男は、当然ジンカイも知っている。

 天賦の才を持った、騎士。【青槍の海賊】を倒し、リアメルに被害を与えていた海賊団を討伐した男。その功績で彼は人気を得て、その名を轟かせた。

「さぞかし強い戦士だったのだろう。……吾輩の配下に加えるという手もあったか」

 ジンカイは、少しだけ惜しそうに唸った。しかしジーアの性質上、仲間になる可能性は低かっただろう。まともな方法では。

「はは、強い、ね……」

 ガルドスは、ジーアの末路を知っている。

 エドワードの報告によれば、最後は発狂しながら死んだという。彼女に傷一つ付けられないまま。少し油断したのもあったのだろうと、ガルドスは思う。なにせ、才にあふれた天才だ。

 その天才もガルドスの手によって、面白おかしく飾られたわけだが。

「致命的だよな。あいつには」

 その少しの油断を、彼女は見逃さないだろう。

「エルマリィ、だったな。あの男を倒したのは」

 そう天上の一人、凛々しい顔つきの銀髪の戦士は。

「素晴らしく強い駒……嬉しい限りだ。ハハハハ」

 王は、満足気に笑った。自分が所有する駒を、誇るように。

「駒かー。相変わらずですね!」

 その発言に思う所があるのかないのか、ガルドスも合わせて笑った。

「ふむ。それで、もう一つの優秀な駒は」

「ノードスですか。あいつも騎士団長を倒したりと、かなりの活躍しましたね」

 もう一人の強力な駒。ノードス。

 王都の防衛を行っていた騎士団長と戦い、これを撃破。元々は海賊が持っていた、水を操る青い槍も、彼の前では無意味だったようだ。

「奴は、相変わらずだらけているのか」

 ジンカイは苦い顔で、そう言った。

「でしょうねー。国の北東にある森で、惰眠に浸っているでしょうよ!」

 ノードスは帰還するなり、眠いと言って、部隊から離れた。今頃は人気のない森の中で、あいつから仕入れたお菓子や娯楽を楽しんでいるだろうと、ガルドスは予測する。

「勿体ないな、せっかくの優秀さを……結果は残しているから、何も言わないが」

 不満気ではあるが、しぶしぶ納得した様子の王。これで結果を残していなかったら、強制的に鍛えられていただろう。

「……二人の元天上。更にもう一人か。名前は」

「あいつですか」

 もう一人、敵になった天上が。

「クルト、か」

 リアメルの侵攻作戦、その途中で乱入した男。

 なんとか撃破したものの、結局取り逃がしてしまったようだ。

「お前と戦ってボロボロな状態で、更に部隊の包囲網を突破して逃走とは。敵ながら惚れ惚れする活躍、ぜひとも吾輩の駒に」

「……本当、痛い目に遭いましたよー」

 ガルドスはいまだ残る体の痛みと共に、クルトのことを思い出す。

 冴え渡る斧、その戦闘技術は、間違いなく天上の名に恥じないものだった。エルマリィとノードス、あの二人と比較して、優劣をつけることができないほどに。

「あいつは、仲間にならないと思いますよ」

 ガルドスは、王の言葉を否定する。

 なんせ、大した関係もない国のごたごたに首を突っ込むような、破綻者にしてお節介野郎だ。どんな思考で動いているか想像できたものじゃないと、彼は自分に返ってきそうな評価を下した。

「そうか、残念だ。……それはともかく、奴は何故に」

 襲撃を知っていたのか?その理由に、ガルドスは思い当たっていた。

 ドルフ。天上の一人にして、ガルドスとも親交がある男。

 ドルフに渡した手紙の中に、今回の襲撃を予想できそうな情報が含まれていたか。

「その顔だと、あるんだな?」

「あー、はい……」

 ドルフも、まさかクルトがそこまでの人間だとは思ってなかったのだろう。

「……結果は残したからな。良しとしよう」

 常人なら、少し背筋が寒くなるような王の発言。

「ですよねー。……それじゃ、早速その結果を伝えてきますよ!」

 ガルドスは笑いながら、逃げ出すようにその場を離れようとする。


「強情な天の使い様に。ごめんなさいってね!」

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