第2話 割りと普通な家庭

最初に見た景色は、真っ白な天井だった。

ぼやけてハッキリとは見えないが、白い天井だろうとは分かる。

身体は上手く動かせない。声さえ上手く出せない。

その理由は、すぐに分かった。

自分は、産まれたばかりの子供になってしまった様だ。

まぁ、そうだろう。異世界転生とは言え、生まれ変わるのが転生。

いきなりオッサンには、生まれ変わらないな。


それからは、途切れ途切れにしか意識はない。

ただ転生する前に見た、泣きそうな笑顔は忘れられずにいる。

生まれ変わる前の意識は、ある程度の年齢になれば薄れていって消えて無くなる物だと思うのだけど。


次に意識したのは、もう5歳となってからだった。

随分と都合がいいと思わなくもない。でも、この歳になるまでに言葉も覚えたし、身体も動かせる様にもなった。その過程も覚えている。

上手く表現出来ないが、産まれてから5歳としての自分の経験は夢の中で起こった事の様に感じている。

何だか自分自身に申し訳ない気持ちになるが、今の自分も自分なんだし、訳が分からない。

深く考えるのは、止めよう。


『コウ、ご飯よ。』

隣の部屋から聞こえる声。お母さんだ。


「は~い。すぐに行く~。」

割りと普通に平和な世界。

平凡な一般家庭で僕は育ててもらっている。

普通で穏やかな毎日を過ごせていると思う。



『・・・・丈夫?

コウ・・・・』

誰かの声で、はっと我にかえる。


「あぁ、うん。大丈夫。少し考え事してただけだよ。」

お母さんへ、そう返事をした。

また、数年飛んでいる。

僕はもう、15歳。

この世界では独り立ちをする歳で、成人だ。


『とうとう、この日が来たな。

早いものだ。』

僕の肩を若干、震える手で掴んだのは、お父さん。

息子の成人に対して、込み上げる感情が抑えられないといったように目を赤くし、潤ませている。


「僕は、今日まで幸せでした。2人の愛情を沢山注いでもらって、僕は居ます。本当にありがとう。」

両親へ頭を下げると


『私たちこそ、ありがとう。

お前が私たちの息子で、本当によかった。

私たちこそ、幸せだったよ。』

父さんは、かあさんと僕を同時に抱き締めた。


このままでは、出掛けられないな。

そう思い、僕は父さんと離れる。


「さぁ、行くよ。

ちょくちょく帰ってくるから。

じゃあ、行ってきます。」

2人に手を振りつつ、離れていく。

何度も振り返り、見えなくなるまで何度も手を振った。


「さぁ、やるぞ。」

誰にともなく、声を出す。

小さな村であっても、僕には大切な故郷なんだ。

次に帰る時には、すこしでも立派になって、戻ってきたいな。

前世の様に世界に絶望する事なく、前を向いて歩こう。

力の限り、幸せを掴み取る為に足掻いてやろう。


最期に、もう一度だけ振り返り、村を見た。




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