第17羽 魔城?

「ん、んんーっ」


 朝靄が薄く漂う中、私はのっそりと起き上がり背伸びをする。

 あれだけ暴れた後なのに身体は痛くない、胡桃の薬が効いたのだと思う。

 昨日は色々あって(ありすぎたけど)、いつの間にか寝てしまったらしい。


 ……ご飯を食べたのは覚えてるんだけどなー。


 周りを見渡すと、桔梗たちが何やら忙しそうにしている。

 荷物をまとめたり、お馬さんの世話? をしていたり。


 お馬たちの世話をしている椿に寄って行き、朝の挨拶をする。

「おはよ、椿、何してるの?」

「おはようなのです、莉乃」

 馬に餌を食べさせながら椿が言う、今日も可愛いぞ。

「松五郎さんたちを、帰すのですよ」

「え? お馬さんたち帰しちゃうの? 荷馬車とかどうするの? どうやって? 危なくない?」

 疑問、疑問、どうしたんだろ?


「二頭とも賢いので村まで帰れるのです、魔物より脚が速いから逃げ切れるのです」

 大丈夫かなぁ? ちょっと心配顔で二頭を見ると、まかせろと言った具合にそろって「ぼひひん」と鳴いた。

 相変わらず変な鳴き声で、くすっと笑ってしまった。

 

「荷車はもう要らないのです、ここからは歩きなのです」

「歩きなんだ? どこに行くの?」

 そんなことを話をしていると。


「おはよう、莉乃は寝てしまったからなぁ」

 桔梗が寄ってきた。

「莉乃が寝てから、話し合いがあってね」

「えーー、仲間外れーー」

 脹れてみせる、もちろん怒ってないんだけどね。

「あはは、すまない、実は杏が莉乃を探しに行った時に見つけたんだよ」

 ん? 何を?


「”クワの巣”だよ」

 ん? なにを? ……え?!

「……え? えぇぇえぇ?!」

 ナ、ナンダッテーーーー!?



 片付けがあらかた終わり、みんなが集まって話をしだした。

 要は、私がおかしくなって走って行ったときに、追いかけてきた杏が”クワの巣”を見つけたそうな。


「たぶん、アイツの魔力を吸い込んだので、向かっていったんじゃないかなー? 向かう先におかしなモノがあってね、それで気が付いたんだけど」

 と、杏が説明してくれた。


「あー、自分で向かって行ったのかぁ、怖いわぁ」

「多分それほど明確な物ではないと思うよ、"引かれた"ってところかな」

 それでも、無意識に"引かれた"なら十分怖いけど。


「それで、おかしなモノって?」

 まぁ、魔王の城って感じなんだろうか? 黒くてトゲトゲのおどろおどろしいやつ?


「う~ん、説明はしずらいかなぁ……、見たほうが早いと思うよ、ボクらなら一時いっときもかからないだろうし」

 私と杏はお互いに首をかしげて、顔を見合わせている。

 何かいろいろ考えてるんだけど、見たほうが早いってのはわかるんだよねぇ。


「はいはい、お喋りはここまで、そろそろ出立しますわよ」

 手をポフンポフンと叩きながら、蘭が立ち上がる。


「蘭が仕切りだしたのです、面倒くさいのです」

 椿が私の方を向いて、ぼそぼそと言いながら立ち上がる、私は苦笑い。

「んまっ! 聞こえてますわよ!」

 蘭さまがふくれてらっしゃる、可愛いにもほどがある。


 ******


「はぁ……、アレかぁ」

 私たちが早足で向かった先、そこにソレはあった。


 黒々とした霧のようなモノが渦を巻き、まるで小山のようになっている。

 これがクワの……、魔王の住処。


「やっと見つけた……」

 桔梗がつぶやくと、みんな真剣な顔で頷く。

 この兎世界に災いを振り撒いた元凶、魔王クワの巣をやっと見つけたのだ。

 みんな、色々と思う事があるんだろう。


 それにしても、このモヤモヤ。

「これ、どうすんの? このモヤモヤの山盛りは、クワのだよね?」

 見つけても乗り込めなんじゃどうしょうもないし、何か打開策でもあるのかな?

「とりあえず、様子を見てみようか」

 桔梗が言うと、そのまま歩き出す。

 みんなでその後を追い、トコトコと黒霧で出来たクワの巣の近くまで歩いて行った。


「結構でかいねー」

 私は目の前で壁のようになっている黒いモヤモヤを見上げながらつぶやく。

 まぁ、小山ぐらいはあるみたいだから、見上げる感じにはなるよね。


「うーん、こりゃ望月頼りかなぁ、ホントに壁みたいになっているよ」

 杏がブニブニと黒いモヤモヤの壁を押している。

 濃すぎて半分物質みたいになっているのだろうか? わからんけど。


 そんな事を考えていると、隣に居る椿が下から覗き込むように私を見て、ポフポフと私の手を叩いてきた。

 椿の方を見てみると、コクコクとうなずいている。


 ……あ、ハイ、私待ちね。

「こンだけでかいとうまくいくかわからないけど、やってみますか……」

 ふふふ、ここはアレだよね、やってみたかった事があるんだ。

 腰を深めに落として、望月を構えようとした時。


「!? あひゃぁ!?」

 私のお尻あたりに、ポフンと何かが触れてきた。


 驚いて振り返ると、桔梗たちがそろって私のお尻あたりに手を出している。

「な、なななな、何してはるんでしゃろかい?!」

 お尻を隠し、びっくりしながら聞くと、桔梗たちが真剣な声で話し出した。

「私たちの力も梨乃に足すよ」

「思いっきりやるのですよ」

「派手に決めておやりよ」

「吹き飛ばして差し上げなさい」

「ん!」


「あ、うん、ありがとう、頑張るよ」

 私はうなずいて望月を構えなおす。

 背中に手をやりたかったのだろうけど、桔梗たちは背が低いので私の腰あたりに手が行くようだ。

 ちょっとお尻がムズムズするけど、桔梗たちの力が体に廻ってくるのがわかる。

 ……暖かい。

 ふうっ、と短く息を吐く。


 深く腰を落とし、望月を真っ直ぐ前に向け、その背に軽く右手を添えた。

 ビリヤードのキューを持つ感じだ。


 私の力+桔梗たちの力を、望月の中に練りこんでいく。


『望月、思いっきり行くよ!』

 心の中でつぶやくと、足に力を込め大地を蹴り、間合いを一瞬で詰め、身体をバネの様にして捻り、望月を思い切り突き入れる。


「くらえ!! 牙突(梨乃式)!!」


 望月が黒いモヤの壁を貫き、ありったけの力を開放すると、クワの黒霧が爆発するように消え、クワの黒霧が剥げた跡は、大きな岩だらけのハゲ山が姿を現し、入り口らしい大きな穴がポッカリと開けている。


「おおー! すごいぞ! 梨乃!」

「牙突! かっこいいのです!」

 キャアキャアとうさちゃんたちが歓声を上げてくれている。

「……あー、うん、ごめん、マンガで読んでやってみたかったのよ」


 なんかちょっと恥ずかしい。

 そう、やってみたかったのよ! 明治剣客ロマンマンガのあの技かっこいいじゃないの!

 九頭龍閃とかやってみようと思ったけどやめておこう、望月は刀じゃないし、棒だし。


「そ、それより、中に入っちゃわない? また塞がれちゃうと面倒だし」

 ちょっと顔が熱い、なんか恥ずかしい。


「そうだね、みんな覚悟はいいかい」

 桔梗がつぶやく。

 私を含め、みんな無言で、そして力強くうなずくと、暗い大穴の中に入って行った。


 暗い大きな洞穴のような一本道。桔梗が術で光の玉を作ってくれているので足元も問題ない。

 みんなのピリピリとした緊張が伝わってくる。

 ここはクワの巣の中、何が起きるかわからない。


 しばらく歩いて行くと、前方が開けた感じになっている。

 大きな部屋? なんだろうか。

 桔梗の作り出した光の玉で入り口付近しかわからないけど。

 

 前を歩いていた桔梗が振り返り、小さくうなずく。

 みんなが身構え、うなずき返す。

 私も、望月を持つ手に力が入る。


 桔梗が、光の玉をもう一つ作り出して、前方に投げ入れた。

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