犠牲となる側の願いによる狂気も、この社会システムの生み出す世界の一つ

 近未来、先進国の都合により、内戦に巻き込まれたアザニアという国の復興と再開発による、またもや先進国の都合による格差を前提とした社会。

 そのなかで、人が生きるうえでの立場のちがいが、そのまま行き過ぎた資本主義の犠牲となるものを踏みつけ続けている。

 これは現代社会の、生きることが保障された、つまり国家、社会として恵まれた我々をふくめた人びとの一分、一秒が、その間、物理的にも精神的にも死に絶えていく人びとたちが生産されつづけることによって成り立っている、風刺の物語です。

 より良い社会を構成する人びとが持ち合わせるべき倫理は、消費を促すための競争、その社会的ゲームを本質としたこの世界というシステムの前では、あまりにも脆弱で、けれど、それでも、犠牲となる側の願いから出た狂気に、主人公のコウタは対面せざるを得なくなります。

 その瞬間、湧きあがる人間的な感情は、人間的だとして、「善し」として、おさめてしまってよいものなのか。

 この物語のなかで、生まれてきてしまった世界によって犠牲を強いる立場とされた人びとへ向けられる狂気を見つめてみてください。

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