第28章
あたしはM82の銃口を一番近くにいるロボに向け……ようとして、そいつがボディのハッチを開いて中から丸い筒みたいなのを取りだしたのを見た。やべっ! 対戦車ミサイル? ジャベリンか?! さっきゲートを吹っ飛ばしたのもこいつだな!
あたしはとっさに狙いをロボ本体から対戦車ミサイルに切り替え、引き金を絞った。この距離だと外しようもない。
さすがM82。撃つなりけっこうな反動がきた。とはいえ、大昔の象撃ち銃じゃあるまいし、肩をもっていかれそうになるってほどじゃない。近代兵器はよくできてる。車体がうまくライフルを支えてくれてるのも幸いしてる。
あたしは引き金を引くなり、結果を見極めたりせず、ライフルを抱えて車の陰へと身を隠した。
間髪入れず、爆発音と衝撃波が車体を揺るがした。あたしがM82から発射した弾は、HEIAPと呼ばれる弾だったんだな。これは徹甲弾と炸裂弾と焼夷弾の三つの機能を併せ持つ多目的弾で、そいつがミサイルに当たって爆発、ミサイルも誘爆したってわけ。
M82はバレット社のセミオート狙撃銃だ。アンチマテリアルライフル、つまり対物ライフルという名前がついてるのは、人間相手じゃなくてもっと堅くて壊れにくいものをバンバンぶち抜くためのものってこと。ただし、対戦車ライフルほどの破壊力はないって言われてる。特に最近の戦車は、装甲堅いからねー。
もちろん、そこんんとこはあたしも計算済み。だからデイヴにわざわざ弾はHEIAPにしてくれるよう頼んどいたんだよねー。これなら、硬い先端と爆発と燃焼の三段仕立てで、どんだけロボの装甲が分厚くても貫通できるだろうと考えたのよ。とりあえず、まずは全然違う役に立ったわけだけどさ。
爆発で舞い上がった粉塵が収まるのを待ったりせず、あたしは地面に腹ばいになって車体の下にライフルをつっこみ、足下から敵を狙うことにした。
とにかく、少しでも先手を取らないと。
よく、物語の世界だと、主人公とライバルとが互いに血を流しながら、逆転に次ぐ逆転の大勝負を繰り広げたりするけど、現実にはそんなのないから。そんなことしてたら、てか、し始めたら、どっちも死んじゃってそこでおしまいだから。
特に銃を使った戦闘の場合、急所に当たらなくてもわりと簡単に人間って死ぬからね。あと、死なないまでも行動不能になって、戦い続けるとか全然ムリだから。昨日のせっちゃんは、ちょー運が良かった。ただそれだけ。
だから、何が何でも先に相手に弾当てて、こっちは無傷で終わらせるようにしないと。まだまだ死にたくないもんね。てか、こんなところでこんな得体のよくわかんない連中に殺られてたまるかい。
持ってたミサイルが爆発したロボは、何メートルか吹っ飛んで、転がっていた。ミサイルを構えようとしていた腕は吹っ飛んでる。中から血が出てるのが見えるってことは、やっぱロボっていうよりは中に人間が乗ってるパワードスーツってやつだったらしい。
あの様子じゃ、かわいそうだけど、もう動けないだろうから、あたしは残り三機のロボを(正確には、車の下からその脚を)探した。
そして、三機それぞれの脚に一発ずつ弾を撃ち込んでいく。M82の弾倉は十発入り。まだまだ余裕だ。三発撃って三発とも見事に命中。なんせ十メートルくらいしか離れてないからね。ピストルでも簡単に当てられる距離だから、ライフルだと外しっこない。しかもHEIAPは見事にロボの装甲をぶち抜いてくれた。読み通り!
ロボ、いや、パワードスーツは三機とも、片脚の先端部を撃ち抜かれ行動不能になったのか、その場で停止した。多分、中に入ってる操縦者の脚はグチャグチャになってて、みんなショック状態だろう。
あとは、特殊部隊の生き残りたちだけど、こいつらはさっきのミサイルの誘爆のあおりをもろにくらって、さらに何人かが倒れてて、活動可能なのはもう二、三人しか残ってない。戦意も喪失してる感じ。
完全勝利。
ここまでほぼ数分。あたし、もしかしたらデンゼル・ワシントンが映画で演ってた元CIAの破壊工作員より優秀じゃない?
そう思った瞬間だった。
左右の、そこそこ離れたところから爆発音が聞こえてきた。それに続いて、激しい銃撃戦の音も。
そして、せっちゃんの声がイヤホンから飛び込んできた。
『37から45! 敵増援出現! メガネに出すよ!』
メガネの左上に衛星からの映像が映る。あたしが今いる迎賓館の前庭の、ちょうど東側にある東門部分と、南西側に位置する門から、熱源が内部に侵入し始めてるのがわかる。って、西門のほうは、そのまわりにもたくさん熱源があって、なんか派手に戦闘してる感じ。
「こちら45! 何、西の方? 警察?」
『鮫が橋門側は派出所も護衛署もあるからね。総出で応戦し始めてる。でも、武装に差がありすぎ』
「てことは何? まだいるの、ロボ軍団?」
『衛星から見てる限り、それぞれ三機ずつ』
まだ六機も残ってんのかー!
『警察はSITとSATに出動かけてるけど、なんせ道路が詰まっちゃってるから、とりあえず一番近い赤坂署から徒歩で出せるだけ出そうとしてる』
いや、そんなの、射的の的になるだけでしょ。てか、到着する前に
「VIPの避難は?!」
『自衛隊がヘリ飛ばした。迎賓館南側に下ろすって』
「絶対ダメだって、それ! あいつらミサイル持ってんのよ。撃墜されて一巻の終わりだから!」
『そうは言っても、籠城戦するわけにもいかないでしょ?!』
「それしかな、ぐわああああ!」
あたしは言いかけた言葉を途中でとめて、叫び声を上げながら立ち上がった。
右手の方からミサイルが飛んできたのだ。またジャベリンか?!
東門を突破してきた敵が撃ってきたらしい。東側の警護はがら空きだったのかー!
そしてもちろんミサイルの狙いはあたし。てか、あたしが防壁代わりに使ってる自動車。
くっそー、せっちゃんと駄弁ってる場合じゃなかった! てか、油断した!
あたしは、ライフルをその場に置いたまま、くるりと車に背を向け、開いたままになっている迎賓館の玄関めがけて、一目散に走り出した。
間に合え! お願い!!
ハイスクール・エスピオナージュ! ~パワードスーツはJKの夢を見るか~ 堺三保 @sakaisampo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ハイスクール・エスピオナージュ! ~パワードスーツはJKの夢を見るか~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます