10

 どこまで走っても荒れ果てていた。もはやどこまでが街だったのかすらわからない。けれど奇跡的に、少女がいつもいたあの場所だけは見つけることができた。前と少しだけ変わっていたものの、見覚えのある瓦礫があった。

 当然、少女はそこにはいなかった。けれど彼女と一緒に包まった毛布が瓦礫に引っかかっていて、おそらくそこがあの場所であろうことは間違いなかった。

 瓦礫の周りをぐるりと回る。やはり少女の姿はない。しかし、いつも彼女と話していたところのちょうど反対側で、額に入った一枚の写真を見つけた。

 満面の笑みを浮かべる少女と、父であろう初老の男性。なんてことのない家族写真だった。そしてそれを見てようやく少年は理解する。

「ここは彼女の家だったんだ」

 少年が行けばいつでも少女はここにいた。少年が去るときいつでも少女はここで手を振った。それはつまりそういうことだったのだ。こんな単純なことにさえ、あの街にいた彼は気づくことができなかった。よく考えればわかったはずだ。街から少し離れたところに貧民層の居住区があったこと。そこが戦争で破壊されたこと。彼女が街の人々から拒絶されたこと。彼女の体がどんどん軽くなっていたこと。それは全部、繋がっていた。


 少年は街の中以外何も知らなかった。だから必死に街の中のことを話した。

 少女は街の中のことは何も知らなかった。だから黙って聞いていた。

 少年は残酷だった。少女が来たくても来られなかった街の話を面白おかしく語っていた。

 少女は優しかった。何も知らない彼に彼の無知を伝えてあげることができなかった。


 腕の傷口から血が垂れた。砂が一瞬だけ赤く染まり、すぐに元の黄土色に戻る。少年はいつも駆け回っていた地面が、こうやって知らない間に血を吸っていたのを知った。


 星が流れる。大地がどんなに荒れ果てようとも、空は悠然と広がっている。いくつ星が流れようとも、もう少年が願うことは何もない


 遠くで戦車が走る音が聞こえた。この砂漠にはもはや何もなくなってしまったというのに、戦争だけが残っていた。

 戦争だけが、残っていた。

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砂漠で出会った流れ星 紙野 七 @exoticpenguin

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