フィールド・オブ・ドリームズ 「取りに行く・会いに行く」

 決して悪意はないのです。けもフレ2と比べようなんて。たまたまアマゾン・プライムで見放題だっただけなんです……。


●メインの「面白さ」

 「取りに行く・会いに行く」ですが、なにを取りに行くのかは途中まで視聴者や主人公本人にも隠されています。


●プロット要約

 1. 主人公レイは父親とけんか別れをして現在はアイオワ州で家族(妻と娘一人)で農業を営んでいる。レイは「それを建てれば彼が来る」というお告げを聞く。


 2. お告げは夢の中でも繰り返され、「それ」は野球場で、「彼」はシューレス・ジョーという野球選手だということが分かる。レイは自分の父親みたいに何にも挑戦しない人生は嫌だ、と考え、自分の畑を潰して野球場を作る。


 3. 野球場のせいで畑の収入が減り、家計が苦しくなる。妻の兄が畑を売れ、と提案しにきた。後悔し始めたとき、シューレス・ジョーや他のスター選手の霊が野球場にやってきて野球を始める。妻の兄には野球場でプレイする霊の姿は見えず、怒って帰ってしまう。


 4. レイは次のお告げを受ける。「彼の苦痛を癒やせ」。PTAの焚書騒動に出席したレイ夫婦は「彼」が六十年代に活躍したテレンス・マンという作家であることを知る。


 5. レイはテレンス・マンと野球の関連性を調べ、彼に会いにボストンに行く。


 6. テレンス・マンは筆を折っていたが、レイに野球観戦に連れ出され、ともにスコアボードにアーチー・グラハムの情報とともに「やり遂げろ」とのお告げを受ける。


 7. レイとテレンスはミネソタに行く。そこで聞いたのは、野球選手になるのを諦めたアーチーはミネソタで小児科医を営んでいたがすでに亡くなっていたということだった。彼の霊に会ったレイはアイオワに来て野球をやらないかと持ちかけるが、断られる。


 8. レイの農場が差し押さえの危機にあると知り、二人は帰宅する。その途中でヒッチハイクするアーチー・グラハムと名乗る若者に出会う。また、レイは彼の父親が亡くなるまで別れたままだったことを後悔しているとテレンスに話す。


 9. 自宅の野球場でアーチーはスター選手に混じってプレイする。妻の兄が乗り込んできて、畑の売却の書類にサインしろと迫る。もみ合う内に娘がスタンドから落ち、意識を失う。アーチーが野球場から出ると、ミネソタで会った小児科医の霊に変化し、娘を手当てする。


 10. アーチーの霊はプレイできたことに満足して去る。テレンスも霊だったことが分かり、霊たちが皆去ったあと、グラウンドに残っていたのは父の霊だった。二人はキャッチボールをし、和解する。結局お告げは父に会いに行き、和解しろという意味だった。野球場にはノスタルジーを求める人々が詰めかけ、畑を手放さなくてもよくなりそうだ。


●「知識を得る」

 ストーリーの序盤(1~3)を牽引するのは「知識を得る」という「面白さ」です。お告げは何をレイにさせたいのか、農場の中に野球場を作って何になるのか、農場は人手に渡ってしまうのか、という謎が提示されます。

 4でテレンスが登場すると、過ぎ去ってしまった六十年代という要素が追加されます。5~9までは各地を回って霊たちに会うというロードムービーになっていますが、一貫してノスタルジーを誘うような会話が交わされます。

 10で結局お告げは死んだ父親と和解しろという、自分の内面の声だったことが分かり、この「面白さ」は完結します。

 ロードムービーの場合、各地で主人公に様々な体験をさせる必要がありますが、それでも全体としての一貫性は必要です。フィールド・オブ・ドリームズの場合はノスタルジー、けもフレの場合は友情。けもフレ2は最後につじつま合わせをしようとしたようでしたが……。


●「取り戻す」

 レイが自分と父親の関係を語るのは2と8です。2では自分の父ができなかったことをやる、とレイは決意します。このように、世代を超えて願望を受け継ぐというのは感動をもたらす要素になり得ます。

 8ではレイが自分の父親の最期を看取れなかったことを後悔しているとテレンスに話します。テレンスはそれに対して、今苦労しているのはそのことに対する罰だろう、というようなことを言います。この時点でレイが自分の父親との関係を喪失してしまっていて、それを悔やみ、回復したいと考えていることがはっきりし、そして同時に彼の贖罪も行われているということが示されます。

 そして10では奇跡が起き、レイは父親の若い頃の霊に再会を果たします。お告げとか霊との出会いとかも奇跡なのですが、違うのはレイが父親との関係を取り戻したいと願い、贖罪をしたという点です。シューレス・ジョーたちとの出会いは単なるイベント、父親との出会いは「面白さ」を締めくくる部分、という違いはここにあります。


●「取りに行く・会いに行く」

 この作品はちょっと変則的で、旅の出発時に目的がはっきりとしていません。「知識を得る」「取り戻す」を経由して、結局レイが求めていたのは父親との再会だった。そしてそれは自分の家の畑にあった、ということが明らかになります。長い旅の末に本当に欲しかったものは自分のすぐそばにあった、というのはよくあるパターンです。「青い鳥パターン」と呼んでいる人もいます。けもフレ2もそうですね。でも主人公のキュルルは旅で特に苦労もしていないので視聴者には伝わりませんでしたが。


●「友達になる」

 レイはシューレス・ジョー、他のスター選手、テレンス、アーチーと友達になります。彼が畑を潰すというリスクを冒したり、必死に説得したりした結果、友達になれたのです。決して向こうからきてくれたわけではありません。けもフレ2は……以下略。

 「友達になる」の定型通り、最後には一人ずつお別れをして去ってしまいます(野球選手は戻ってくることが示唆されていますが)。これもしみじみとした感動を呼びます。


●まとめ

 出発するときに求めるものがはっきりしていなくても、ロードムービーは成立しうるということがこの作品の特徴なのではないでしょうか。それ以外は手堅くまとまっています。

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