第二十四話 決意。


「面白い。やる気だね」


 一丸いちまる佩刀はいとうの鞘の栗形くりかたに手を添える。


「待て待て待て! こいつはわしがやる!!」


 諏訪すわが再び刀の柄に手をかけた。


「やめろ!」


 松浪が一喝した。真桜流奥伝道場、筆頭師範代の命令である。一丸も諏訪も構えを解かざるをえない。


「……若槻はあのとき、口にしてはならぬ言葉をいったのだ」


 松浪が静かな口調で大地にいった。


「口にしてはならぬ言葉……?」


 大地がおうむ返しにたずねる。


「なんだべ、そいづは?」


 松浪はざわめく周囲をちらり見やると、


「いまはそれしかいえぬ。こたえを知りたくば……」


 スッと指を大門の奥に向けた。


「あの場でわたしと勝負することだ」


 そういうと松浪は無造作に一歩を踏み出し、大地の傍らをすり抜けざま、ぼそりと告げた。


「待っているぞ、番付第十席」


「ッ!!」


 大地ははじかれたように振り返った。

 松浪は大地が番付第十席の剣士であることを知っていたのだ。

 諏訪と一丸を引き連れた、その松浪の背中が遠ざかってゆき、大門のなかへと吸い込まれてゆく。


「松浪の貫禄勝ちや。さて、どないする?」


 虎之介が傍らに寄ってきて大地を挑発する。さらにその横には興奮した顔の辰蔵の姿もある。


「おら、若槻一馬を探しださにゃならねえだ」


「大江戸八百八町をくまなくか。見つかるころには爺さんになっとるで」


「…………」


 大地は黙り込んだ。

 確かに虎之介のいうとおりだ。この広い江戸で、手がかりもなしに探しまわったところで月日を無駄にするだけかもしれない。


「探し出すんやない。見つけだしてもらえばええのんとちゃうか」


「見つけ出してもらう……?」


「そや。あんさんが武術会にでて、それなりの活躍をすれば大騒ぎになって、向こうから寄ってくるかもしれへんやろ」


「んだべか?」


 確かに虎之介のいうとおりかもしれない。

 こちらから探しにゆくのではなく、向こうからきてもらう。そのためには武術会に出場して目立つしかない。


「もっとも優勝するんは、このわいやけどな」


 やはり虎之介も地区予選を無事勝ち抜いて出場の資格を手に入れたようだ。


「大地さん、いってくだせえ。虎の旦那と一緒にあの門をくぐってくだせえ。 

 今日あの門は、選ばれたものにしかくぐることはできねえ。

 この機会を逃すと一生後悔しやすぜ」


 辰蔵が耳元で熱弁をふるっている。


――ならば約束せよ。決して人目に触れる場所では闘わないと。


 出場すれば天狗様の師匠との約束をさらに破ることになる。

 だが――

 すでに大地の腹は決まっていた。

 決意の一歩を踏み出す。

 あの門の向こうにすべてのこたえがある。

 大地は虎之介とともに剣豪剣雄ひしめく闘いの場へと赴くのであった。




    次回、転章へとつづく


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