第2話 隣客の時

隣客「…あらっ?また寝ちゃった…」

喜一郎「…ぐぅ〜…」

機内は人も少なめで静かだ。

スーッという空気の音が聞こえそうな中いびきがかすかに響き渡る。

ガラガラ

乗務員「お飲み物いかがですか?」

隣客「お茶お願いします。」

喜一郎「…はっ!?」

乗務員「お客様お飲み物いかがですか?」

喜一郎「えっ?あっ、お茶を」

隣客「あれ?起きたんですね。」

喜一郎「えっ?ここは?」

隣客「ふふふっ」

喜一郎「…」

隣客「寝ぼけてるんですか?」

喜一郎「あっ、あの、はい。」

喜一郎「起きたら家に居た夢をみて…」

隣客「夢でも寝てたんですねっ。」

喜一郎「あっ、はい。」

隣客「わたし、ミサキっていいます。さっきから話してたのに今更だけど。」

喜一郎「あの、喜一郎といいます。」

ミサキ「喜一郎?お侍さんみたいでかっこいいですねっ!」

喜一郎「古くさいですよね?」

ミサキ「そんな事ないですよ。わたしなんて親が海好きで、ミサキですからね。」

ミサキ「わたし空の上が一番好きなのに。」

喜一郎「えっ?空の上?」

ミサキ「そう。だからたまに1人で旅行に行くんです。飛行機に乗りたくて。」

喜一郎「???」

自分のまわりで自分みたいに空が、飛行機に乗るのが好きなんて言ってる人、今まで聞いたことなかった。

喜一郎「そうなんですね?僕なんて飛行機好きすぎて部屋には模型たくさんあるし、空港で働いてるんです。」

ミサキ「そうなんですかっ!?」

ミサキ「空港の仕事って憧れです。」

喜一郎「パイロットじゃないですけど…」

ミサキ「空港で何を?」

喜一郎「飛行機から荷物を降ろしてそれを運んでます。」

ミサキ「じゃあ、あの荷物引っ張ってくの運転してるんですか?」

喜一郎「ええ、一応。」

ミサキ「かっこいいじゃないですか?」

喜一郎「そうですか?」

喜一郎「本当はパイロットになりたかったんですけどね。」

ミサキ「でも、喜一郎さんの仕事かっこいいじゃないですか。」

喜一郎「そうかなぁ?」

ミサキ「わたし飛行機好きだから空港で色々見てるんです。喜一郎さんかはわからないけど結構見てますよ。」

喜一郎「そうなんですね。」

喜一郎「ミサキさんはお仕事は?」

ミサキ「旅行会社で働いてます。」

喜一郎「やっぱり飛行機や空が好きだからですか?」

ミサキ「そう。客室乗務員なりたかったけど、大学行くほど頭良くなかったし。」

喜一郎「素敵ですよ。旅行会社の仕事。」

ミサキ「ありがとうございます。自分なりに結構好きでやってます。」

ミサキ「こうやってたまに1人で旅行にも行けるし。」

喜一郎「いつも1人で?」

ミサキ「はい。誰かと一緒だと気とかつかうし、1人だと気楽だし、とくに一緒に行く人もいないし。」

喜一郎「そうなんですね。僕もたまに1人で飛行機乗ってどこかに行くの好きで。僕の場合は地元じゃないから、友達もいないし彼女とかもいないから。必然的に1人です。」

ミサキ「わたしもですよっ!地元じゃないから友達いないし、お付き合いしてる人もいないし、1人が気楽っていうよりかは必然的に1人っていうのが正解かな?」

喜一郎「似てるって言ったら失礼かもしれないけど、なんか自分と似てるかなって。」

ミサキ「わたしも思いました。」

雲の上で偶然隣合わせただけの知らない男とこんなに仲良く話してる事に違和感も感じないミサキ。

結構人見知りだった自分はどうしたのか、考えることもしないまま会話はとぎれない。

ミサキ「そういえば家に模型あるって言ってましたよね?」

喜一郎「はい。発売されてるものは多分ほとんど持ってます。」

喜一郎「ははっ、変ですよね〜。」

ミサキ「そんな事ないです。わたしも飛行機好きで、飛行機に関係するグッズ持ってて部屋に飾ってますよ。」

ミサキ「変ですよね?」

喜一郎「全然!僕なんてパソコンデスクをコックピットみたいに自分で作っちゃってますからねー。」

ミサキ「えーっ!すごーい!」

喜一郎「ただのモノ好きですよ。」

ミサキ「見たいな〜。」

喜一郎「写メあります。これです。」

ミサキ「わ〜っ!コックピットみたい。」

喜一郎「コックピット風ですよ。」

ミサキ「全部自分で?」

喜一郎「ええ、まぁ〜。」

ミサキ「ホント、凄いですよこれ。」

喜一郎「変わり者のモノ好きですよ。」

ミサキ「たしかに、わたしたち2人とも他の人から見たら変わってるかも?ですね!」

喜一郎「ですね。」

話は尽きないどころか、さっきまで名前すら知らなかったとは思えないくらいに会話はとぎれない。

そんな2人を乗せ雲の上を順調に飛行機は飛んでいく。


第3話に続く。



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