音と光の乱舞 (1)

「いつでも、掛かって来いやオォン!」


 なし崩し的に始まってしまった、デイとの一騎討ち。

 フリーは困惑しつつも、武器を構えてデイと相対していた。

 言うまでもないが、フリーは空気が読めないし、正直過ぎて一言余計なことが多いため不用意に他人を怒らせることがままある。

 そのため、今現在をもってしてどの辺がデイの怒りに触れたのか分かっていない。


「仕方ない、これも何か意味があるんだろうし」


 結局、考え過ぎると頭痛を起こす性分のフリーは考えることを止め。目の前の出来事に集中することを選んだ。

 フリーが構えるのは短剣ナイフ。しかし、それは通常と異なる形状をしていた。

 輪郭は一般的な刺突向けの中心が鋭利になっているタイプのモノと同じだが、違うのはその中、刀身がないのだ。

 肉抜きされ戦輪チャクラムのように刃のみが柄に突き刺さっている。

「じゃ、行きます!」


 一見すると貧弱そうな短剣を両手でそれぞれ一本ずつ構え斬りかかるフリーにデイは油断しない。

 弱そうに見えたとしても、それにはそれなりの理由があり、用途があることをデイは長年の戦闘経験から理解していた。


(まずはその武器の特性を把握する)


 相対するデイは徒手。つまりは素手だ。

 これは彼なりの最適解であり、これもまた、理由のある選択。


(徒手ってことは、近接格闘に自身があるってことだよね。だったら――こっちに分がある!)


 デイの腕二本分の間合いでフリーは攻撃を仕掛ける。当然フリーの刃もデイには届かない。


「肉弾戦をする気はないってか!」

「はい!」


 勢いよく答えたフリーは、そのままの勢いで二本の短剣をぶつけ合わせる。


共振波ハウリング!」


 中が空洞になっている二つの金属を衝突し、音を響かせた。

 本来ならただやかましいだけの音、だが、フリーは『魔術使い』だ。

 フリーの手元から発せられた音はたちまちに、『増幅』する!


「なんだこの爆音はッ!!」


 ただ煩いだけなら我慢もできよう。しかし、それが耳元間近で発せられたかのような爆裂音なら話は別だ。

 魔術とは、魔術使いがもつ莫大な生体エネルギー『魔力』を様々な形状、性質に変化させて外界に放出する物理技術を指す言葉だ。

 この場合、フリーは音の波、つまり空気の振動を自身の魔力でより大きく振るわせたのだ。

 鼓膜が破れんばかりの音にデイの両手は思わず耳を塞ぐのに当ててしまった。

 フリーは初めから短剣で斬り裂こうとなど考えていない。

 奇抜な武器によって目が逸らされていてデイは気づいていなかった。フリーの最大の攻撃力を誇る武器がどこにあるのかを。


「せいやァッ!」


 壮絶な音の中、音源のフリーは全く怯むことなくデイの懐に潜り込んでいた。

 そして、がら空きの脇腹に叩き込むのは、馬にも喩えられた健脚から放たれる強烈な回し蹴り。

 しなる足が空を切る音とともに、着弾を告げる衝撃音も鳴り響く。

 体格で劣るフリーが放った蹴りだが、ただの蹴りならデイを吹き飛ばすに足りない、だが、ここでもまた存分にフリーは魔術使いの力を振るう。直撃と同時に、衝撃波を増幅させる。


「――インパクト・アンプリファー!」


 直撃――流れるような技のコンビネーションの前に、デイは成す術もなく蹴り飛ばされる――


(そう、甘くはないか)


――ほど、第三機関『D』の実力は柔じゃない。


「エネルギー波の増幅か。シンプルな分、汎用性が高く、使いこなすと便利な術だな。だが、普通過ぎる」


 ヒットしたと思った脚の先には何もなく、間抜けに一本足立ちしているフリーの姿のみ。

 デイはその僅か後方、つまり、蹴伸びしている爪先の延長線に彼は仁王立ちしていた。


「幻影ですか――見かけによらずトリッキーですね。デイ先輩」


 フリーは知識として魔力で光の屈折を操作して自身の姿を別の場所に投影する術があるということは知っていた。

 看破の仕方も知らないわけではなかったが、まさか、見るからに肉弾戦一辺倒のデイがそんな術を使ってくるとは思いもしていなかったのだ。


「お前も、筋肉馬鹿に見えて搦め手を使ってくるじゃねぇか。まあ、いい次は俺から行かせて貰うぞ」

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ノーバディズ フリー&コール 文月イツキ @0513toma

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