犬の声


「この色とともに」ゆっくりと


「我らとともに」願いを込めて


「生きよう」少し強く、でもどこか悲し気なラランの言葉の後


「命色!!!!」三人はバケツの水を白化したところにバシャリとかけた。キザンが二個目のバケツをかけると


「おおー」という警官たちの声がして、消えることのないような靄が少しづつ晴れてくるように、ぼんやりと反対側の人間の顔が判るようになってきた。それと同時に何かの音が聞こえ始めた。


「何だこの音? 」


リュウリは自分の真反対にいるラランの、厳しい表情が見えるのと同時に、いつの間にかコジョウとキザンがラランの側に来ているのもわかった。そして数秒もせず、その前に警官がさらに守るように、命色師たちを隠した。リュウリの目前にも二人やって来て


「数歩下がってください」


緊張した声を出した。

リュウリは昨日の話を思い出していた。


「ウオーフォーの可能性はないとみていいんだろか、どう思うコジョウ、リュウリ? 」

「生息域から遠いし、あまりにも場所が小さすぎる。彼らが潜んでいる可能性はないだろう」

「ラランに・・・今まで動物が牙をむいたことなんて全くないよ、時々無視すような犬もいるけど、それの方がとっても珍しい」

「確かに聴色師は「動物たちも知っている」といわれてはいるが・・・歴史上何度かあったんだよ、白化した動物が命色師にではなく、聴色師に向かっていったことが。命に別状はなかったらしいけど、その時聴色師の言った言葉が

「彼らにしてみれば、早く気が付いてくれ、助けてくれと言っていたのに、という怒りなのだろう」だ。危険が全くないわけではない」



「そうだ・・・ラランを守らなきゃならない、でも僕は一番遠い所、そうだ、そうすることがいちばん・・・」考えていた時突然


「ウワンワンワン!!! 」

警官の後ろからでも、動く何かがラランの方へ向かっていくのが見えた


「ララン!!! 」リュウリの叫び声と同時に棒と何かがぶつかる音がして


「それ以上は止めてください!! 」大きなラランの声がして、警官の前には何かの物体が横たわっていた。


「何だ・・・・・これは・・・・・」


異形なもの、そうではない、言った警官もわかってはいるのだ、これが中くらいの「犬」であることを。しかし、それはリュウリには「ラランが見えなくてよかった」と思えるものだった。


「まだらな犬」


昔話で読んだことはあった。ある部分は透けるようで、でも内臓が見えていて、一部分には毛があってそこだけは普通、しかし、骨だけ見えるような部分もある。筋肉が呼吸のための規則正しいものと、衝撃によるけいれんとで動いている。


「弱っているわけじゃない、この中で生きていたんだ」

そのことがリュウリには驚きだった。そして数分そのままいると、犬は急に起き上がり、人のいない方へ去って行ってしまった。

その音のする方向を、ラランは悲し気にしばらく見つめていた。

リュウリもキザン達もその姿の方が胸を刺すようで、ラランが白化したところを見直してので、やっと自分たちの命色した場所を確認した。


「あまりにも予想通りで、面白くもない」


ぶっきらぼうに、コジョウは一目その場所を見ただけで、目をそらしてしまった。キザンもリュウリも署長も、他の警官たちもため息をつくしかなかった。


「そう言えば・・・古い家具を森の方へ持ってい行っているなとは思っていたんですが」警官の一人が言ったが、すぐさま署長が


「少し離れた方がいいかもしれません、これだけの高さですから」

大きな木の高さほどの捨てられたものの山が出来ていた。その中にはリュウリたちの宿の家具とそっくりなものもあった。


「時間はあとどれくらいですか? 」

ラランがそう聞いたので、署長は


「あと一時間くらいです、言われた通り、森の何か所かに色入りの肉も置いていますよ、本当に・・・あなたは私の娘と同じ年なのですが、会わせたいようでもあり、そうして落ち込む娘を見たくもないし、というところですよ」


「そんなことはありません、私にはこの事しかできないのですから」

はっきりとそう言った。リュウリもコジョウたちの所にやって来ていて


「何かあるのかい、ララン」と尋ねた。


「町の代表者数人がここにやってくるの、来てもらうように頼んだの。知らないでは済まされないでしょう? 理由をキチンと知らなければ、同じことが起こってしまう」


「ラランちゃん・・・・・」

「何ですかキザンさん」

「お手柔らかに」

「キザンさん、多分私、サイサイさんよりも気が強いですよ」

「それは俺にとっては好都合、なあリュウリ」

「嫌いになるかも、ラランが」みんな少し笑った。




「妙な不作が続いたのです、それがずっとなぜかわからず、収入が断たれて、自殺した農家もいた・・・私の友人ですが。勿論それだけが原因ではないかもしれません。そんな時に、一人の命色師なのかどうかわからない男がやって来てこう言ったんです。

「白化したものを小さな池一か所に集めた方がいい、そちらの方が広がりを見せないはずだ。時々餌のようにいろいろなものを投げ込めば、きっと元に戻りますよ、命色だけですべてが上手くいくはずはない」と・・・しかも・・・・」

そこで代表者は言葉を止めてしまった。


「これを資金に使ってくださいと言われたんですね」コジョウが素早く言ったので

「ハイ・・・・・その通りにしました、でも、そうするとすべてが良くなったんです! 町は潤ってお金のために死ぬなんてことはなくなった! 」


「だが、軽犯罪が増えて、子供は悪い道に進むことが増えた。そりゃそうだな、親がやっちゃいけない事を平気でやれば、大きくなればそう自分もするだろう、親を見習って」キザンの言葉に


「簡単に言ってくれる! 何も知らないくせに! 」反論はあったが


「町がそこまでひどく疲弊する前に何故連絡をしなかったんですか? 」

と落ち着いて署長が言ったので、町の代表者たちはうつむいてしまった。


「白化を促すものをこの町のあちこちにばらまいたのでしょう、それがひどくなったところに、お金を持った人間がやって来て「こうしたら大丈夫」と言った。目に見えない白化は、数年で落ち着くことが多いのです。白化していないから命色師とは関係ない、と思ったのが間違いの始まりです。命色師はもともと「理を表すもの」ともいわれてきました。呼ばなかったのはあなた方の責任です。それにどうも数か所見えない白化があるように思えます。私たちが対処します、それでよろしいですね? 」


「ハイ・・・聴色師のお嬢さん・・・私の孫の年くらいだ。恥ずかしいことです」


「あともう一つ、詳しく教えてください、その男の人のことを、何をどうして、どう動いたのかも」ラランはとても落ち着いていた、しかし、開くことのない瞼の下には、きっと鋭いまでの眼光があることを命色師たちはわかったいた。







「リュウリ、あの子はどうだ? 素直そうだし、可愛いし、最高じゃないか」


 結局命色師たちは警察の宿舎に泊まり、そろそろ一か月になろうとしていた。男たちの寮で、警察官たちと一緒に話していた。

「今はそんな気分じゃない、キザンはサイサイさんがいるのに女の子みてるのかい?」

「何だ? サイサイさんは俺の女神、高い所にいる」

「女じゃないのか? そう言っとくよサイサイに」

「僕も時々サイサイさんに会うんです、ばらしますよキザンさん」

「結構結構、諦めよっかなーと思っていたから」

「ハハハハ」

とても楽しく過ごしていた。白化したところを命色したことはすぐに知れ渡り、町の人たちとも徐々に打ち解け、軽犯罪は急に減少した。


 それもそのはず、犯罪の増加のうわさを聞きつけて、他の町からやって来ている泥棒等をマグマがことごとく一網打尽にしたのだ。


「そんなに署長さんはマグマの扱いが凄いんですか? 」

「すごいというかリュウリさん、とにかく彼らが素直に聞くんですよ。

「「その実ばっかり食べていたら足が弱ってしまうから、たまにはこれも食べるといい」といって署長が出したものを食べるんですから。マグマの中で信頼が翼に乗って各地に飛んで行っているんでしょう」

「それはすごい、そうあるべきなのでしょうが・・・本当にそうなっているってすごいことですね」

「多分」

「ハハハハハ」


昼間町を歩き命色をしていたが、事実は考えていたより、何倍も巧妙だった。

「何だろう、この塊」

「キザン、それを壊さないで、白化の元が入っている! 」

「え! これが数年前からあちこちにあって、タダの土くれかと思って崩していたんです」その土地の人間が言った。

「時間が来て、自然にこれが土に入るようにしたんだ・・・そんなにひどくはならないが大量いなると作物は育たない」

「じゃあ・・・あの男が? そう言えばウロウロしていたっていう・・・だいぶん前に見たっていう人も」

「ここはもともとは肥沃な土地で、財力もあったから狙われたんだろう」

コジョウは分析したが、これからの事に気が滅入る思いもしていた。



だが町で命色を続けていると

「僕 命色師になりたい! 」

「私はラランのお姉ちゃんみたいな聴色師になりたい! すごいもの! 」と

今まで言うことのできなかった可愛い小さな応援者が、日一日と増えて、明るい希望が急激に育ってきていた。



「コジョウは婚約者がいる、で通すつもり? 」

「リュウリ、そうしておいて、面倒なんだ」

「コジョウさん、モテるからなあ、羨ましすぎ」一人の若い警官が言った。

「同性に受けが悪いぞコジョウ? 」

「女嫌いとかじゃない、押しが強くて、それでもいいという女が嫌いなだけ」

「だからラランに頼んだんですね」

「そうそう、ラランの言葉が一番すごい」

「もしかしたら、この隊のリーダーラランさんなんですか? 」

「そうかも、決めていないけど、でもお願いですから女性警官にも内緒で」

「ハイ、仰せの通りに」

「ハハハハハ」



女性寮では

「とても素晴らしい方ですよ、コジョウの婚約者は」

「そう・・・ラランさんがそう言うなら駄目よね」

ラランはマグマの小屋に泊まりたがったが、さすがにそれは止められた。

「危険だから」といわれたのだ。でも本当は毎日泊まりたくてたまらなかった、何故なら犬の匂いが、あの時の犬の匂いがしたからだ。

ラランは嗅覚が敏感で、においで誰が来たかを当てることもできた。


「犬が・・・私を許してくれるかしら」

自分にとって少しわがままと思えるようなお願いを、警察と地元の人にお願いした。色のついた肉が食べられているのか、あの犬がウロウロしていないか。数か所の肉は持っていかれているようで、あの犬を見た人間も現れた。


「あれは・・・・バケモノですか? 」

「どうか、そう言わないであげてください、恐れないで、そうしてしまったのは私たちなのですから」何の責任もないラランにそう言われた町の人は、頭を下げるしかなかった。


「ララン! ララン! 」

警察署長の娘とは、すぐに仲良くなれた。そして彼女も父親譲りの動物好きと正義感で、犬のことに協力してくれた。

「わかってる、深追いする気はないわ。私があの子からから怪我をさせられたら罪人になってしまうもの」

犬に対してそう言った彼女が賢く面白くて、久々ラランは楽しく笑った。そして彼女からも聞いた。


「見た・・・・・少しだけだけど、あれでは他の犬からも敬遠されてしまうでしょうね。でも前の話からすると、徐々に良くはなってきているみたい、私は顔はちゃんと見えたから。前は顔の部分もひどかったって言うから」


「そう、良かった・・・」


毎日、必ずラランはリックの所にも会いに行った。

「リック、元気? 」コジョウも毎日来ているがラランは就寝前が多かった。

リックを撫でながら、ラランは言った。

「リック、もしあの犬が付いてきても許してあげてね、いやかもしれないけれど、白化を引き起こすものはないみたいなの。ごめんなさい・・・お願いね」

少し涙を流すこともあった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る