マグマの力


 この世界の昔話が本当であれば、すべての鳥には色がもちろんなかった。そしてこのマグマに関しては話は山のようにあり、一冊の本だけでは収まることはない。だがもっとも一般的に流布している話をするならば、「昔マグマは自分を真っ白にしてくれるよう人間に頼んだ。しかし人が神を怒らせるたびに色の部分を増やし、マグマが真っ黒になった時、それは人の世の終わりを告げる」ということだ。真っ黒な鳥も存在するのだが、そう言われているのはマグマだけである。


 この世界でもウォーフォーの仲間を小型化して飼いならしたもの、「犬」はいて、番犬や牧羊犬、狩猟犬そして警察犬もいる。警察犬は常に人といて、何かの証拠となる臭いを嗅いだり、その臭いの記憶を頼りに、人を探し当てる。がマグマは警察鳥、指名手配の犯人の顔を覚え、悪いことをしている人間を見つけては、それを警察官に知らせてくれるのだ。山火事というのもある。

その報酬として彼らが得るものは


「個々の大好物」なのである。


だから警察にはマグマ専門の人間がいて、各々のマグマが何が一番好きで、二番目はということを本当に熟知している。成果の度合いによってそれをきちんと変えていて、極秘事項なので詳しくは知らされていないが、微妙なやり取りがあるという。


 

有名な昔話がある。


ある泥棒がマグマに犯行を見られたので、騒がれる前に好きそうな餌を与えた。一心不乱に食べている間に犯行を済ませその場を立ち去った。マグマはあまり長距離を飛べる鳥ではないので「この町を早く出れば大丈夫」と泥棒は急いだが、町のはずれで騒ぎ立てるマグマと警察官に捕まってしまった。


つまりマグマは泥棒からも警察からも美味しいものをもらうことができた、ということだ。


だがこの続きのような話もあって、別の泥棒が同じようにマグマに騒がれたので

「毒入りの餌」を与えた。かわいそうにそのマグマは死んでしまったのだが、この泥棒は別のマグマたちの力ですぐさま他の町で捕まってしまった。それ以来、マグマは怪しいものから餌をもらわなくなった。長距離を飛ぶことがないはずなのに他の大陸ででも、である。また詳しく調べたところによると、他の鳥に比べて味覚、嗅覚が異常なほど発達していることも判った。彼らは食べられるものとそうでないものが完璧にわかるのだ。


総ての知恵の神、マグマをそう呼ぶ地域は多く、その神を数百年前、警察は

「人工的に増やそう」とした。だがこれは罰が当たったのか、弱い個体ばかりになってしまい、上手くはいかなかった。その結果どうなったのか。


マグマは「志願」してくるようになった。


 マグマの中にも人間が嫌いなものもいる。そのようなマグマは自由に生き、人間に協力して、食べ物をもらおうかと思っているものだけやってくるようになった。だが気候により餌が少なくなったりしたときには、志願者が多くなり、キザンが言うような警察鳥ではない「ちゃっかり者」もかなりいる。総ての知恵、つまり奸智も含まれるのだ。

この世界の動物はかなり賢い。

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