生きよう コジョウ=モウ


「止めろよ、もったいない! 俺のをやるからお前の色は絶対に使うな! それにあんまり良くないものの使い方も知っていた方がお前にとってもいいだろう? 」


「だって・・・三倍色量がいるんだったら・・・」


「値段はお前の持ってるものの十分の一だぞ! 練習だろう? 」

リュウリはしぶしぶキザンの持っている色で、染石に命色してみた。


「ああ! すごい! 染石としては一番きれいだ! 」

少し大きめの岩の上面をすべて色で覆った。


「へえ・・・結構広くできるじゃないか。驚いた」


「毎回毎回キザンの物を見てきたからね、やり方もちょっとわかった」


「やだなあ・・・俺が実際にやっているの見せたらお前散色もできるようになりそう」


「ハハハ、今よりは広くしたいけどそれは無理だとは思うよ」


 その言葉にキザンはリュウリが並外れた命色師であることを確信した。多くの命色師は自分の技を見ると「どうしているんだ、教えてくれ! 」と幼い頃の自分のように聞いてくる。だが散色はまた特別なため、簡単にはいかないのだ。それに何よりもリュウリが恐れていることは他にあった。三人で過ごして一週間になるだろうか、これからもこのままやっていけそうだと、それぞれが思った故なのかも知れない。リュウリが風呂に入っているとき、ラランが自分に打ち明けるように言った。



「リュウリはずっといろんなことを我慢してきたのじゃないかって思うんです。イライラしたこともあっただろうに・・・でもリュウリにとっては命色がすべてなのだと思います。ストレスのはけ口さえもそれになっているのじゃないかって。もちろんイライラした気持ちで命色は出来ないでしょうけれど。ただ命色がリュウリにとって生きるすべてで、それを失った時に・・・リュウリはどうなってしまうのだろうと思って・・・」


 ラランにとって本当に心の奥底からの思いだった。無理な命色はその力自体に大きく影響する。もし散色に近いことができるようになったとしたら、急にラランが懸念することが起きる可能性が大きいのだ。キザンはそのラランの優しい気持ちに


「ラランちゃん、ラランちゃんはリュウリの保護者じゃない、いや保護者でもそこから先は立ち入ってはいけないんじゃないかな。俺たち命色師は確かに能力が突然失われるときがある。でもその時はその時、そう思って見守るだけで十分だよ、きっと。俺たちは駆け出し、ラランちゃんも心配せずに聴色師としての道を突っ走ったらいいんだよ。あの青百合のばあちゃんみたいに」


「はい、そうですね、青百合さんに会いたいんです」


「じゃあ、急がなきゃ、急いで腕をあげて会ってもらわなきゃ。あのばあちゃん、天国で命色しちまうから」


「フフフ、そうですね」

キザンもラランも小さな階段を上った気分だった。




「だからダメだって! 俺の全部使ってもいいから! 」


 砂漠にキザンの声と、カンカンとくぎを打ち付ける音、カポカポと可愛い音がする。バーニー(ロバのような生き物)に乗ったラランはその声の方に向かっていた。自分たちの小屋にキザンが頼んだ大工がやってきていて、馬小屋を増設していた。費用を自分で負担すればそれも可能なのだ。ラランは大工さん用のお昼ご飯を小屋に置いて、リュウリたちにも食事を届けようと歩き始めると「バーニーで行くといい」と大工さんが荷車をのけたバーニーを貸してくれた。小石の多い礫砂漠では確かにラランは歩きづらい、だがバーニーは目的地さえ示せば、自分の歩きやすい所しか歩かない。


「ありがとう、疲れているでしょうね・・・」

ラランの言葉にほんのちょっと耳を動かしただけだったが、少し歩調を速めてくれたような気がした。

「あの辺りには美味しい草も生えているといっていたから、丁度いいかしら」

フカフカした鬣を撫でながら、ラランはずっと話しかけていた。命色師は、また特に聴色師はそうするものなのだと一般的に言われていて、ラランが動物に言葉をかけると何故か急に大人しくなることが多かった。もちろん例外もあるが。


「絶対に使うな! お前たちの色を使ったら別種見たいって言われなかったか? 」


「そう言えば・・・」


「お前たちの色は発色が全然違いすぎるんだよ、虫が別のものだと思うぞ」


「一応虫がちゃんと集まるかは・・・確認したよ」


「それならいいけど・・・とにかくダメ! 」


キザンはおかしいほどにこの事には頑ななので、ラランはバーニーを撫でながら

「あなたはどう思う? 私たちの色を使った方がいいと思うかしら? 」それに対して答えはなかったが、大きな岩山にも蹄鉄の音がこだましたのか、キザンとリュウリはラランを迎えた。



三人は昼食中に

「絶対に教えない、楽しみにしているといい・・・でも来ないかもしれない」


「来ないかもしれない? それなのに厩を作っているのかい、キザン? 」


「まあ、誰かのためにもなるだろうからね、そして来るかもしれない奴は、特に馬、命だから」


 この世界では基本的に馬が活躍している。その点は昔の我々の世界と同じだが、生き物なので大切に扱われている。その大切さが少し独特で、馬を持つならばそれに乗る人間自らが必ず世話をしなければならない。王ですらそうであったといわれており、そうしなかった王が馬に蹴られて死んだという話がどの大陸にも伝わっている。そういうある種凶暴な面も持っているが、やはり生活には欠かせないし、こちらがきちんと世話をしさえすれば、裏切ることはないともいわれている。事実、王侯貴族がいなくなった現在ではそう言う事故は起こっていない。


「じゃあ、ここの草をたくさん持って帰るんですか? 」


「そう! もし来るならきっと俺たちの食料も持ってきてくれるだろうから。でももし明日か明後日まで来なかったら、先に行こう」バーニーは必死で草を食べている、栄養価も高いのかもしれないと皆思った。



「あれ? 」とリュウリが空を見上げた。


「ん? 」キザンも同じ方向を見て、さらにラランまでが同じことをした。


「あんな大きさの白い蝶はいないはずだ」


「とすればあれは砂漠の花って言われる蝶の・・・白化したものか? 」


「ふらふら飛んでる」


「捕まえよう! リュウリ! 」キザンとリュウリは一目散にその方向に向かった。もちろん網などはない。


「そっちに行ったぞ! 岩に上れ! リュウリ! 」

「わ! 高い! 滑るよ、命色したてで」

「こっちに来た! 」


その二人の様子にラランはため息をついた。蝶は本当にただ風に流されているようであり、それでも必死に高く飛ぼうとしていた。


「やめて! そこで止まって二人とも、動かないで! 」


その声で二人は時が止まったままのように固まっていると、蝶はゆらゆらとゆっくり、ラランの方へ向かっていった。そしてラランが手を肩の高さに上げ、指を少し伸ばすと、その先に蝶は止まった。


「助けを求めているのに・・・どうして捕まえようとするの? 」


「・・・うーん・・・・男の性かな・・・」キザンとリュウリは同じ顔をした。


 

帰り道、蝶はラランの肩に止まったままだった。

「ごめんなさいね、あなたの色が小屋にしかないの、それにもうすぐ雨が降りそう、明日の朝まで我慢してね」

「聴色師の仕事だね・・・」とキザンは感心し

「ごめんね・・・砂糖水なら作れるから」とリュウリは蝶に謝っていたが、砂漠の花の色はとても複雑で、絵は持っているが今夜はラランとそのことに対する話をしなければならないと思った。小屋に戻ると立派な厩が完成していて、三人は大工にお金を渡し、バーニーのこともお礼を言った。そして早めに風呂に入って、蝶のための話をしていると、ぽつぽつと雨が降り始めた。


「あいつ、雨男だからな・・・ほんとに来ると思うよ」


「だからお風呂を熱めに沸かしたんですか、優しいですね」


「でもやってきたらさんざん俺に悪態をつくよ、ラランちゃん。男の本心を見せてやる。なあ、ってリュウリ、そんな顔するなよ」

ラランの事になると厳しいリュウリであった。


 雨は降ったり止んだりだったが、次第に寒くなり始めた。キザンは小屋の外に出て暗闇にじっと目を凝らした。リュウリも外に出ると、かすかに雨の音の中に蹄とガチャガチャという音が聞こえてくる。


「隠れてろ、リュウリ、ラランちゃんと一緒に、荷物もだぞ! 」


「どうして? 」


「どういう人間か知るにはそれが一番だろう? ラランちゃんの部屋に行って隠れてろよ、小屋の戸は開けっ放しでいい。ラランちゃんの匂いを消さなきゃ」


まあ、面白いことなので言われた通りにやってみることにした。どんどん

と音が大きくなり始め、暗闇の中、二人で「本当にたくさんの食料を持ってきているね」と楽しく笑っていた。そして小屋の前で馬は嘶き、止まった。


「ようこそ王子様、夜分遅くに」


「そう遅くはないだろう? それよりなんで小屋の戸をあけっぱなしているんだ、小雨の中来たんだ、寒いじゃないか」


「お風呂も熱めに沸かしてございますので」


「当然! それぐらい気が利かないでどうする」


「これはこれは、上からの物言いで」


「上からの物言いする人間がこんなに食料を持ってくるのか? 荷物は自分で中に入れろよ、俺は馬の世話をする」


「風呂は? 」


「後だ、とにかく馬も少し寒がっている、拭いてやらないと」


「優しいな、いつも」キザンのその言葉に答えず、その男はまず厩に入った。



「新築、今日でできたって感じだな。ああ、いい草もある、良かったな」

ブルブルと馬の声がして、その体を拭いている音もした。キザンは荷物を中に入れ終わって、ララン達にひそひそと話した。

「どうだ、なかなかの奴だろう? 」

「クスクスクス・・・」


「良い小屋だな、ありが・・・とう・・・」


「聞こえないな、礼ぐらいはちゃんと大きな声で言えよ! 」


「ありがとう! こいつはお前とは何故か馬が合わないが、今回のことで歩み寄ることができたみたいだぞ」


「それはそれは」「クスクス・・・」「聞こえるよ、ララン」


しばらくたって彼が小屋に入ってきた。

「風呂はいいのか? 」


「来る途中で湯加減を見てきた。かなり熱かったから、しばらくして入る」


「相変わらず何でも早いな」


「アーアー疲れた」

といって靴を脱ぎ、どっさりと座った。小屋の床は地面より少し高い所に作ってある。ムカデやサソリのような毒を持ったものがいるからだ。


「来ないかと思ったよ」


「来るんじゃなかった、お前ひとりじゃな、一緒にいると思ったのに」


「もしかして二人に会いに来たのか? 」


「当然だろう、お前のためにどれだけ彼らがしりぬぐいをしたと思っているんだ! 」


「なあ・・・もしかしたらそうなるように、お前のおやじさんが仕組んだとか」


「あのなあ、父が本当にすいませんと深々と頭を下げるのを初めて見た。お前のやらかしたことで「息子さんの学友でいらっしゃるから、特別扱いなのですか」とまで言われて。「散色師は貴重なのです、長い目で見てやってください。人間的には悪い男ではないことは保証します。また彼の後に優秀な命色師を派遣しますので」だぞ」


「でも徐々に上手くなった、そう苦情も来ないだろう? 」


「彼らに対する賞賛が凄いんだ」


「で、それを見に来たってことか? 本当にそれだけか? 」


「・・・・・」


「どうだ、手紙にも書いたとおりだ、一緒に行動した方がいいだろう? 馬が親友のお前に、この世にも珍しい散色師の友、いやお供になる名誉を」


「ハイハイ、楽しそうだな、学校で小さくなって、窮鼠猫を噛むみたいなことをやっていた人間とは思えん」


「俺がお前を命色師にしてやった、散色師にしてやったとは言わないのか? 」


「それは・・・お前が俺に対して心から感謝をしていればいいこと」


「時々本当に上から目線だからな」


「お前がモウ家、モウ家と言い過ぎなんだよ。そのモウ家の人間の役割だ、命色の才能を持つ人間を探し出し、適材適所に据える。それが父の、他の名家の仕事でもある」


「面白いか? その仕事」


「父は適任だがね・・・俺は果たしてどうなのかな・・・」


「考え中なのか、ここまで来て、で、俺の大好きなものは持ってきたんだろうな?」


「何? 食い物に好き嫌いは全くないだろう? 酒はほんの少しだけだ」


「違う! 酒は俺だってそんなに飲めない! 

 

 サイサイさんだよ!!! 


 お前のあの世にも尊い姉上様どこだ?


 荷物の中とか? 」


「ハアー、お前なあ、いい加減に諦めろ。サイサイはお前を弟、究極までいっても本当の弟としか思わない。それに俺は大陸を回ってきたが、よその国でもお前のような「サイサイ様、サイサイ様」って奴がわんさかいるぞ、父が世も末だと言っていた」


「それが悪い方に向いているってことか? それは違うぞ、生きる希望だ」


「それに、お前がキザンと名乗って一層・・・」


「初恋の、あこがれの人に近い名前を付けたから? 」


「違う。「近い名前を付けたって言うことは本家を超えるつもりがないんだろう、もっと骨のある男かと思っていた」って言っていたぞ」


「ああ・・・サイサイさんのその崇高な厳しさが一層たまらないな」


「クスクス・・・」

聞いている方はとても楽しかった。ずっとリュウリたちは笑っていたが、このモウ家の男は何かおかしいと思ったのか、急にララン達の部屋の方へ向かったので


「ばれたよ、二人とも出てきて」とキザンは幕を引いた。


部屋から出てきた二人に「ハアー」と大きくため息をつき、こう名乗った。


「コジョウ=モウだ、リュウリ君とラランさんだね、私の父は君たちのお父さんとは何度か会ったことがあるそうだ」


「ハイ、覚えています。鳥に乗って来られた。あっというまに帰ってしまわれましたけれど」


「役者がそろったな、コジョウ。先に風呂に行って来いよ、食事の用意をしといてやるよ」


「お前が? 」「ラランちゃんが」「じゃあ行ってくる」

コジョウは小屋を後にした。





「美味しい」

といいながらコジョウはラランの作ったものを無心に食べていた。

ラランはホッとした表情だったが


「なあリュウリ、こいつの家は広いんだ、学生時代遊びに行ったことがあるんだがびっくりしたんだ」


「そんなに・・大豪邸なんですか? 」コジョウは顔色一つ変えず、黙々と食べ続けている。


「広いから若いメイドとかいっぱいいると思うだろう? 俺はそれを期待して行ったのに、入ったら・・・爺と婆ばっかり! しかもどう見ても長くいる使用人って感じじゃない、年よりの小遣い稼ぎみたいな、驚いた! 」


「ハハハ! どうしてですか? 」


「母が、若いメイドなんて絶対に入れない、火種を家の中に入れるようなもんだって」


「賢い方ですね」すっとラランが言ったので、コジョウはクスリと笑った。


「でもさあ、お前のためにも若い子がいるだろう」


「若くしてモウ家のメイドなんて下心が見え見えだって、そんな女がお前は好みなのか、一生の相手は自分で苦労して見つけてきなさい、だそうだ」


「それで大陸を回ったわけか? 」


「情報収集、交換のためだ」


「じゃあ、ここで聞かせてもらいたいな、何故俺がわざわざお前をここに呼び出した

のか、あと数ヶ月で、俺たち命色師はモウ家に集まらなきゃならない、二年に一度の集会だ。だがお前の家じゃ絶対に聞けないことだ。聞かせてもらうぞ、リュウリもラランちゃんも危険を冒してまで此処にやって来ている。お前には、モウ家を継ぐ者には義務がある。こっちは上納金も払っているんだから」


「何だ? 」食べ終わったコジョウは改まった。


「白化の原因、白化させる方法を、お前たちの一族かその弟子が考案したとされている。今度のことはそのせいじゃないのか? 」


そこまで鋭い声のキザンは初めてだった。

 

 この事はまことしやかに語られていることだった。リュウリもラランも知ってはいたが、それは嘘であろうと思っていた。もし本当に人間がやっているのならば、人間を困らするためにやるはずだが、それほど極端に困ったようではなかったからだ。

コジョウは少し考えていた。彼はいろいろな事を知ってはいるだろうが、口に出して良いことと悪いことはきちんと判断しなければならない。

だが出てきたのは三人が驚くようなことだった。


「脱色師を知っているか? 」


「ええ、透明な剣を作るときに色を抜く専門の命色師がいたって話は・・・」リュウリの言葉に


「それは、モウ家の一番弟子だった男だ」


あたたかな部屋が一気に凍り付いてしまったように感じた。


ラランはその閉じた目の中で、何かが急に見えた気がした、二人の男が言い争う姿、

そして


「わた・・す・・・」急にラランが口走ったので


「ララン? 」

「ラランちゃん? どうかしたの? 」


「ラランさん・・・何か見えますか? 」


コジョウのかけた言葉に、しばらくしてラランは答えた。


「渡す・・・今までの研究のすべてを」


ラランは二人の男の声まできこえるような気がした。二人のうち一人の声はコジョウの声に似ていると思えた。そのあとラランの呼吸が乱れたので、コジョウは少しラランの体支えて、温かい飲み物を飲むように勧めた。



「コジョウ? お前何かラランちゃんにしたのか? 」


「まさか、彼女は千里眼だ、その能力がある」


「千里眼? いやな言い方だな、洒落てるつもりなのか」


「そんなんじゃない、彼女は優れた聴色師だ。並外れている。未来と過去を見、聴くこともできる。だが体の負担も大きいんだ」


「キザンさん、コジョウさん大丈夫です、ちょっとふらっとしただけです、私の見たものは過去なんでしょうか、コジョウさん」


「コジョウでいい、多分まさにそれだったと思う。モウ家は自分たちが国を離れた後、脱色師が生まれたことを知った。それと同時に透明な剣がさらに切れるようになったという噂もあったので、密かに国に戻り、弟子と会った。弟子は自分たちだけ隠れた師匠を責めたが、透明な剣が完成すればそれは脅威でしかなくなる。その思いから自分の研究の結果とやり方をその師に逆に伝授した。そう伝えられている」


「東の脱色師が一番優秀だったと・・・」


「そうだリュウリ。弟子に一緒に国を出ようと言ったが、彼はいろいろな事情があって離れられなかった。どこの国も結局同じように脱色師が生まれて、それを各々の形で阻止したんだ」


「で、その脱色師が優秀だったから、反対に山に色を付けることができたってことなのか? 」


「まあ、そんな所だ」


「でも俺の質問の答えにはなっていないぞ、俺たちはが聞きたいのは」


「わかってる・・・それはな・・・」





「ハハハハハ! そんなことと思ったぜ! 」

「ハハハハハ! 」

「フフフ」ラランも気分が良くなって笑っていた。


「もし本当に思い通りに白化させることができたなら、俺たちの一族の誰かが王になっているだろうさ」


「表面だけを白く染めるか。でも凄いですよね、なかなか落ちない白い色って」


「弟子が洗濯屋だったらしいんだ」

「本当か? 」

「冗談だ! 」

「こいつ! 」「ハハハハ」「フフフ」しばらく笑ったが、コジョウは持ってきた酒に手を伸ばす前にリュウリを見た。


「今までの旅で何か気になったことはないか? 」ラランも顔から笑いが消えた。


「僕たちが命色師の儀式を行った山に行く道が・・・とても歩きやすくて」


「聖域の山への道がか? お前の町はかなりはずれにあるのに? 」


「ええ、キザンさん、大勢の人間が通ったような・・・町のような歩きやすさでした」


「ラランさ・・・、いやラランがそう言うのなら・・・」


「どこまで掴んでいるコジョウ? 俺たちの命に係わるんだ」


「いわゆるならず者の集まりだが、どうも他国では透明の剣を使った形跡がある」


「他国ってことは繋がっているってことか? 」


「そうだ、どうも行き来までしているらしい。だから足取りもつかめなかったんだ。調べたら聖域の山にトンネルまで開けている、だがその作業で人が死んでいる。そんなこと奴らはお構いなしだ」


「手強いな・・・」


「状況は悪い、こちらの方が準備が全くといってよいほどできていない感じだ。だが今の所そこまで頭数はそろってはいない。もし何か起こすにしても・・・しばらくは・・・ララン大丈夫かい? 」


「ハイ、でも先に休ませてもらいます」

「おやすみ」「おやすみなさい」


ラランが部屋に戻った後小さな酒宴が開かれた。そこでキザンはリュウリに投げかけた。


「俺は散色師を極めて詳しく後世に残したい。コジョウはその証人になってくれるだろう。そしてこいつは否が応でもモウ家の技を守っていかなければならない。戦いが始まるかもしれない。お前は、一番若いお前はどうしたいんだ? 」


「どうしたい・・・僕は極めたい、命色のすべてを知りたい、でもそれだけではだめだ。そう思ってはいるけれど、何かが見つからない。その何かがあるのはわかるけれど」


「そうか・・・やっぱり、君は「希望」だよ、リュウリ」


「羨ましいか? コジョウ。縛られていないリュウリが」


「正直に言おうか、その通り」


「ハハハハハ」 


砂漠の蝶は部屋の中じっとしていた。




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