ハッピー、ニューイヤー

@siosio2002

除夜の鐘を聞きながら。

 買ったばかりのホットココアを握りしめ、温もりを感じながらコンビニを出た。外の寒さがますますココアの暖かさを際立たせる。

 あと数分もすれば今年は終わり、去年になる。そして来年が始まり、今年になる。

 そんな日でも、俺は一人だ。

 俺は別に友達がいないわけではないんだ。ただ、みんなは一緒に過ごす相手がいて、俺は居ない。それだけだ。

 だが理不尽だと思う。なんでそんな相手がいるんだよ。クリスマスの時だってみんなして作りやがって。

 気持ちが昂り、思わず目頭が熱くなっていく。落ち着くためにココアを啜る。両手で握りしめる缶から手袋越しに暖かさが心に染みる。これが彼女の手ならどれだけ良かったことか。

 涙を堪えながらゆっくりと足を進める。とりあえず初詣だけはしとこうと思ったのだ。

 途中で飲みきったココアの缶を袋に詰め、バッグに仕舞う。大したことのない行動でも一つひとつが虚しく感じてしまう。

 出来るだけ誰もいない裏道を通り、神社に向かう最中、除夜の鐘が鳴り始めた。遂に今年が終わったようだ。今からは新年。

 暗い道で「去年は何をしただろうか」と振り返る。そういえば去年の初詣も一人だった。夏祭りもなんだかんだ一人で過ごした。あの時の花火は寂しかったなぁ。そしてクリスマスか、数日前の出来事だけど、やっぱ忘れようかな。

 そんなことを考えていると神社に着いた。鳥居を潜ろうとした瞬間、足を止めた。


 わんさかいたよ、カップルが。


 こんなの実質俺に対するテロだよ。よく見るとまあ全員揃ってました。彼女と歩く友達も、幼馴染と歩く友達も。クリスマスに誘ったあの子も彼氏と歩いていました。自分の幼馴染もクリスマスに出来たであろう彼女と居ました。

 見れば見るほど悲しくなる。今度は泣く前に帰ろう。そう思いすぐに踵を返した。大丈夫、目はあってないし見られてないから気づかれてないさ。

 しかし、後ろから自分の名前を呼ぶ友達の声が聞こえた。後ろ姿でわかったのだろうか。全員が合流して、偶然一人の俺を見つけて呼んだってところだろうか。

 別にこのまま気づいて合流知ることもできるだろう。だが行ってどうする? リア充たちの隙間で精神的に押し潰されるのを待つか?

 そりゃ学校では話すから話題には困らないだろう。だがきっと一緒に過ごせば俺が悲しくなるだけだ、気づかないふりをして帰ろう。


 石段を踏みしめて家路へつく。


 今の自分に「今年こそ」なんて考えはない。去年は正直頑張ったと思う。でも……。

 よし、帰ろう。それがいいんだ。一人で布団にくるまって寝よう。それでいいんだ。


 それで……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ハッピー、ニューイヤー @siosio2002

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ