第17話 ショート

「・・・うお!やべえ!やべえって!」


左手に牛乳、右手にスマホを持った大石が軽く叫んだ。


「どうした?」


深川がかなり面倒くさそうに聞くと、


「ベル博士たちすっげえ有名になってる!」


と、スマホの画面をこちらに向けた。


「・・・マジかこれ・・・」


深川がつい、『マジ』と言ってしまうのも当然だった。


ワープによる行方不明のニュースが多くなっていると同時に、ベル博士の論文によって解決へと導かれている、というニュースが並んでいた。


「・・・さっきの・・・そういうことか・・・」


「いやはや・・・困りましたね 有名になってしまったようで」


そう言うベル博士は困った、と言う割には嬉しそうな顔をしている。


「これは、取材は免れなさそうですね グラスにはかなり働いてもらうことになりそうだ」


「もちろんです 絶対にへたばりませんから、安心してください」


二人は目を合わせるとコーヒーを一気に飲み干した。


「それでは、申し訳ありませんがここで失礼いたします さきほどの記者の方々にお詫びもしておきたいですしね」


「なるほど、大変だとは思いますが頑張ってください」


「頑張って・・・まじか・・・すげえ人じゃん・・・」


しっかりと別れの言葉を言う深川とは対称的に大石は事態を飲み込みきれていなかった。


「またぜひ、お会いしましょう」


そう言ってベル博士と助手のグラスは部屋を出ていった。



「あーはは・・・なんだこれ」


頭のなかがすっかりショートしきった大石が乾いた笑いを浮かべる。


「なんだか・・・すごいことになってきてるな」


「いーみ分からねえ・・・」


「ま、おれらもそろそろ出るか?久しぶりにゆっくりベットで休みたいしな」


「まあ、そうだな・・・」


「おい、牛乳、もうないぞ」


大石は飲んでいた牛乳を飲み干したことにも気付いていなかった。


「あーまじか・・・まじか・・・」


そう言いながらカップを口から離しはしなかった。まだ考えることまでは出来ないみたいだ。


「ったく・・・」


深川はそう言うと無理矢理カップを口から離し、無理矢理立たせ、押すようにして歩かせ、探検家用のホテルへと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る