第20話:新年(3)

「うーん……やっぱり慣れた部屋は落ち着くな……」

「確かにそうですわね……色々ありましたし……」


 二人で疲れた精神を癒やしながら、王宮内の「星樹の間」でくつろぐ。

 この王族専用のリビング……サロンとも言うが、ここで過ごす時間はとても楽しいのである。


 ヘルベルトとルナーリアはそれぞれ、ハリー兄上とセルティ姉上とお喋りしている。

 アレクは……マリア様の膝で寝ていますね。そんなにきつかったのか。


 先ほど昼食を摂り終えて、あと一時間もすれば「新年の儀」での最大のイベントが待ち受ける。

 これは、王都にいる貴族の当主たちが一堂に集まり、謁見の間である「聖竜の間」で国王陛下に挨拶を行うものである。


 だが、この時に五歳になる王族も出なければいけない。

 そこで陛下と公式に・・・顔を合わせたということになり、王族として迎えるという宣言がなされるのだ。

 これを「王族受容の儀」という……らしい。


 つまりは、だ。

 兄上や姉上たちは来ないのである。

 結局のところ正装選びのメインは俺たちだったわけだ。道理で張り切るわけだよ。


 といっても、この式が終われば会食があり、舞踏会もあるので、そこでは結局出てくるらしいが。

 そして、舞踏会では王都詰めの貴族の子供たちも参加する。

 そこで将来のコネクションを作ったり、婚約者を見つけたりするらしい。面倒な。


 そんな事を思いながら、傍にあったヴァイオリンに手を伸ばす。

 どうやら、ステータス画面のスキルには、こういった芸術系のスキルは出ないらしい。

 出ているのは戦闘系のスキルと魔法のみなのである。


 特に決めた曲ではないが、即興でヴァイオリンを緩やかに弾きつつ頭を空っぽにする。

 さっきの聖教会関連の商会の話、婚約の話、使命……

 今だけはそれらを頭から追い出して、俺は音楽に没頭していった――。



 * * *


「さて、そろそろお時間ですぞ。参りましょう」


 王家の執事であるパウルスが俺たちに呼びかける。

 ふとヴァイオリンに没頭していたら、時間が迫っていたので先ほどまで正装に着替え、準備をしていたのだ。


 結局俺の礼装は、濃いめの藍色のドルマンに右肩から飾り帯を下げ、紫をベースに金色のモールで装飾を施したサッシュを左肩から右腰にかけて斜めがけする。

 ズボンも同様に藍色だが、サイドに赤いラインが入っており、黒い革ブーツを履く事になった。

 ドルマンの胸元で飾り帯をサファイアのブローチを付けて留めている。

 そして、腰に儀礼用ではあるが細剣を佩く。


「なんか、最初に選んだ時よりかなり豪華になったな……」


 そう。俺の衣装は最初選んでいたものより豪華になっていた。

 派手というわけではないが、金色や銀色の装飾が増え、肩の飾り帯も追加されている。

 元々、赤いサッシュだったはずが紫に変わり、さらには剣を佩いている。


 これらには実はそれぞれ意味があるのだが、はっきり言って意味合いが重い。重すぎる。


 まず、色。

 紫はこの世界でも「高貴な色」とされ、公式の場で着用することは出来ない。

 国王が基本的に着用し、王族や、公家公爵当主がサッシュに使用できる位なのだ。

 といっても、王族でも縁取りに、公家公爵でサッシュのセンターライン止まりなのだ。

 少なくともメインカラーに出来るのは、国王だけである。


 それなのに。

 俺は今、サッシュが紫色一色なのだが。そして装飾がやたらと施されているんだが。


 次に、肩の飾り帯。

 これは騎士の礼装に見られるもので、通常は近衛騎士団長が用いる。

 飾り帯は、それだけ国王に寄りそって守ることが出来る実力を持つ存在であることを意味するのだ。


 極めつけは剣である。

 儀礼剣とはいえ、いわば金属の塊。

 それは充分武器になる。


 本来、謁見の間である「聖竜の間」には武装して入る事は出来ない。

 武装できるのは、近衛騎士の中でも王宮警護に当たる者のみ。

 実力と忠誠、その双方を兼ね備えた者のみである。

 つまり剣を佩くというのは、国への忠誠を認められ、信頼されている証しなのだ。


「いや、マジで盛りすぎでしょう……」


 豪華すぎる……というより意味が怖すぎる正装に身を包んだ事で、はっきり言って胃が痛い。

 つい口調までおかしくなってしまったじゃないか。

 あまりにも信頼度が高すぎるのではなかろうか。


 そう思いつつも呼ばれたので出て行くしかない。

 部屋から出ると、すでにウィル叔父上や父上、叔母上たちや母上が待っていた。


「お待たせいたしました」

「気にするな……うむ、立派だな」

「本当ね。これなら貴族たちも下手なことは出来ないでしょ」


 叔父上と叔母上――マリア様がそう呟く。

 貴族たちがどうかしたのだろうか。


「なんというか……見違えるな。これも……」

「うんうん♪ 格好良いわよね~! 洗礼のおかげかしらん?」


 そう言いながら母上がウィンクしてくる。

 あれ? 俺はまだ両親にも何も伝えていなかったはず。

 これはエリーナと頃合いを見計らって伝えようと話していたのに。


「おや、なんのことでしょう?」

「あらあら♪」


 すっとぼけてみたのだが、帰ってきたのは母上の笑い声だけ。

 ふと叔父上を見てみると、こちらに微笑まれながらこう言われた。


「レオン、我々はなにも洗礼を咎めるつもりはない。洗礼と加護についてはヒルデから……大司教からも聞いた話だからな」

「……そうなのですか? しかし、何故に母上が?」


 大司教はいいとして、なぜ母上からの話になるのだろうか。


「それはな、ヒルデは司祭の資格をもつから、そういうのが見えるらしいのだ……初めて余も知ったのだが、な」

「大司教にも困ったものよ本当。な~んか怪しかったもの」


 何をやっているんだ大司教。

 しかし、俺の洗礼が分かっていると言うことであれば……


「お待たせいたしましたの」


 別の部屋からエリーナが出てくる。

 今日の彼女は薄い水色をベースとしたドレスを着ており、胸元にパライバ・トルマリンに似た、青緑色のブローチを身につけている。


 彼女も王族なので、赤地に紫で染め抜かれた百合の紋章が描かれているサッシュを着けている。


「お、おまたせいたしましたお父さま」


 そして最後にアレクが入ってくる。

 白いシャツに灰色のジレ、装飾の施されている、身体にフィットした少し明るめの紺の上着を着ている。


 サッシュは青地に二本の紫色のストライプが入ったものだ。


「さあ、行こうか」


 そう言われて、俺たちは「星樹の間」から出て、謁見の間である「聖竜の間」に向かうため、近衛騎士のエスコートを受けつつ移動する。

 国王が先に、その後ろにアレク、エリーナ、そして俺の順である。


 王宮から宮殿に移り、叔父上と別れてから、一旦控室に入って待機する。

 この後、呼ばれた段階で俺たちは謁見の間に入ることになるのだが、謁見の間に入るには何か所か扉がある。


 まず、一番大きい中央の扉。

 これは、謁見する人物のみ入ることの出来る扉。


 そして、その左右にあるのが貴族たちが、謁見の際の控えの列に並ぶために入場する扉。


 さらに、謁見の間の奥、一段上がったところの横にある王族のための扉。


 最後に、王の入るための玉座横にある扉。


 父上や母上などは王族用の扉から入る。

 本来、俺たちもそちら側なのだが、今回は「王族受容の儀」のため、中央の扉から入り、玉座前の段手前まで進まなければいけない。


 ……これが意外と遠いのと、時間がかかる。

 普通に歩くのは御法度らしく、威厳を持って、ゆっくり歩くのだ。

 儀式だからなのだろう。


 しばらくすると、遠くで『イシュタリア王国国王、ウィルヘルム・アダマス・カッセル・イシュタリア陛下、御入来!』とのお触れの声が聞こえる。

 同時に、厳かにイシュタリア王国歌「聖竜よ、我が祖国と王を守り給え」が流れ始めた。


 ――さあ、そろそろだ。


 国王である叔父上が新年を宣言すると、その後にはすぐに「王族受容の儀」が行われる。


「いよいよですのね……」

「き、きんちょうする……」


 エリーナが膝の上で拳を握ったり、開いたりしている。

 彼女でさえ少しは緊張しているようだ。

 アレクは……マナーモード状態である。


 うっかり吹き出しそうになるが、ぐっとこらえて二人に微笑みかけてみる。


「心配するな、周りに幾ら人がいようと、俺たちは俺たちの練習成果を見せるだけだ!」


 それを聞いた二人は、顔を上げて驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になって頷いてくる。


「さあ、行くぞ」



 * * *


「陛下、そろそろお時間です」

「うむ」


 横に控える近衛騎士団長の声を聞きながら、余は歩き出す。

 同時に、先触れとなる宰相の声を聞きながら玉座に向かって歩を進める。


「イシュタリア王国国王、ウィルヘルム・アダマス・カッセル・イシュタリア陛下、御入来!」


 同時に、イシュタリア王国歌「聖竜よ、我が祖国と王を守り給え」が演奏されるのが聞こえてくる。

 王国が興ってから何百年と奏でられる国歌は、まさにイシュタリアの精神を余すところなく示す。


 この曲を誰が作ったのかは分からない。

 だが、この国を愛し、この国を想う歌はまさに国民の、貴族の、そして王族の持つ揺るがぬ思いだ。


 余が玉座に座ると、ここに集う全ての貴族が跪き頭を垂れ、揃って口を開く。


『『『陛下、新年お祝い申し上げます!!』』』

「うむ、顔を上げよ」


 居並ぶ貴族たちの姿が、表情が見える。

 どの者も、立場の違いはあれども国を想う者たち、余の戦友である。


「昨年も、我らは平和と共に歩むことが出来た。それは、ここに集う卿等の働きによるものである。故に卿等の健闘を称えよう」


 そう余が告げると、皆が誇らしげな表情をする。

 例え余の権威が大きかろうと、広大なイシュタリアを治めるには協力者が必要なのだ。

 それを理解している者たちは、余の宝である。


「さて、新年となった故、気持ちを新たに民を慈しみ、守るという務めを忘れず、弛まぬ努力を卿等が続けることを余は信じておるぞ」

『『『陛下の仰せの通りに!』』』


 声を揃え、貴族たちが宣言する。

 これも一つの儀式であるのだ。


 一同に集まった者たちに宣言させ、今年も忠実なる臣下であることを誓わせる。

 いわばパフォーマンスなのである。


 つまり、もし余に対して、あるいは王国に対して弓を引いたり、不利益になることを行った者は……言わずとも分かるであろう?



「さて、新年の宣言はここまでであるが、このまま次の儀に移る。陛下、お願いいたします」


 宰相の言葉と共に、余は次の儀の始まりを告げる。


「これより『王族受容の儀』を執り行う」


 余の宣言によって、少々貴族たちの表情が変わる。

 王族の誕生時、祝いを持ってくる者は当然多い。

 だが、あくまで性別のみ知らされており、誰なのか知るものはいない……いや、ほぼいない。


 だが、少なくともいつ生まれたかを覚えていれば、いつ受容の儀が行われるかを推察することは簡単な話である。

 どうも、焦った顔や目が泳いでいる奴は忘れておったな。


 連中は、祝いの品や、場合によっては同世代の子を連れ、どうにかして繋がりを持っては宮殿での力を持とうとする。

 場合によっては、王族の婚約者となろうという夢を見るのもおる。

 まあ、今回は婚約者の空きがほぼ無いが。


 さて、そろそろ余の大切な役目を果たさねば。


「――王族として迎えるは、王室典範に基づくものである故、此度の儀、誠に喜ばしきものなり」


 ああ、宰相が最後の宣言文を読み切ったな。


「迎え入れよ」

「はい、陛下……諸卿皆、礼を尽くせ」


 これから入場するのは、王族。

 故に、貴族たちは跪かなければならん。

 同時に「騎士王凱歌」と呼ばれる王室曲が流れ始める。


「イシュタリア王家第二王子、アレクサンド・オリヴァ・フォン・イシュタリア殿下、御入来」


 我が子であるアレクサンドは緊張しているようだが、それでもしっかりとこちらに向かってきておる。

 まあ、少し早足に感じるがな。


 余の玉座の一つ下の段、そこで余から見て右に寄って立つ。


「イシュタリア王家第二王女、エリーナリウス・サフィラ・フォン・イシュタリア殿下、御入来」


 恐らく我が子の中で最もしっかりしておる娘。

 街に飛び出したかと思えば、短剣を振るって悪党を成敗する……なんともお転婆な娘である。


 と言っても無謀ではなく、自分の限界をよく知っており、引き際も弁えておる。

 本当に、誰に似たんだか。


 歩く姿は凛としており、まるで場慣れしたかのように一歩一歩近づいてくる。


 美しくドレスの裾をつまみ、余から見て一段下、左側に立つ。

 さて……


「イシュタリア公家第二公子、レオンハルト・フォン・ライプニッツ殿下、御入来」


 まさに、威風辺りを払う。

 五歳の少年の筈なのに、まるで歴戦の軍人を思わせる風格。

 見事にあつらえた正装は、まるで何年も着ているかのように彼の体を包み込む。


 一歩踏み出すごとに地を揺らすように。

 少しずつ、少しずつこちらに向かってくる。


 そのレオンの姿を見て、少々謁見の間がざわめいておる。さもありなん。

 レオンなら分かっておるだろうが、レオンの佩用するものはどれも、普通ではないからな。


 さて、レオンがアレクとエリーナの間、中央に立つと、三人が共に跪く。

 同時に貴族たちは今度は立ち上がり、こちらを向く。


 その様子を見つつ、宰相から勲章を受け取る。


「余、イシュタリア国王ウィルヘルム・アダマス・カッセル・イシュタリアは、イシュタリア王家第二子アレクサンド・オリヴァに対し、『聖竜十字勲章』を与え、この者をイシュタリア王国第二王子であると、ここに宣言する」


 同時に余は王子アレクサンドの胸に勲章を提げる。

 緊張で固まる我が子だが、が肩に手を置くと少し落ち着いたのか、ふるえる唇を奮い立たせて言葉を紡ぐ。


「わ、我は王族の範を守り、民を慈しみ守ると誓う」


 アレクが宣誓すると、謁見の間にいる貴族たちが一斉に拍手する。

 それを聞きつつ、余は、無事誓約した我が子に労いの言葉をかけるのだ。


「よくやった」


* * *


 アレクの宣誓が終わり、貴族たちの拍手を聞きつつ、俺はこれからを考えていた。

 この勲章授与が終われば、俺たちは皆王族としての務めを徐々に行うようになる。

 そうなれば、簡単に外に出ることも難しくなるだろう。


 出来るだけ、上手くやれるように考えておかなければ、神々との約束を果たすのは難しい。

 こうなれば、貰うだけの立場ではなく、実力で得られる立場をどうにかして求めなければ。


「余、イシュタリア国王ウィルヘルム・アダマス・カッセル・イシュタリアは、イシュタリア王家第二女エリーナリウス・サフィラに対し、『聖竜百合剣勲章』を与え、この者をイシュタリア王国第二王女であると、ここに宣言する」

「我は王族の範を守り、民を慈しみ、守ると誓う」


 叔父上が勲章をエリーナに掛け、彼女が宣言する。

 しかし、思った通りだ。

 サッシュは本来、勲章を吊り下げるもの。

 だが、一部の勲章に限れば、サッシュも勲章を意味するのだ。

 ……そう考えると、俺のサッシュは――いや、考えないでおこう。


 エリーナが受けた勲章は「聖竜百合剣勲章」。実際、彼女のサッシュには百合の紋章が描かれている。

 ちなみに王族の受ける勲章は、必ず名前に「聖竜」が入る。

 この勲章は王族のみのものなのだ。


「余、イシュタリア国王ウィルヘルム・アダマス・カッセル・イシュタリアは、イシュタリア公家第二子レオンハルトに対し――」


 一瞬、国王陛下が軽く息を吸うのが聞こえる。

 できればアレクと同じものがいいんだが……

 

「『双剣付・紫綬・聖竜星勲章』を与え、この者をイシュタリア王国公家第二公子であると、ここに宣言する」


 瞬間、音がなくなる感覚を覚えた。

 皆が皆、息をするのも忘れ、ただ驚く。


 だが、ここで俺が呆けるわけにはいかない。

 陛下が俺の首に勲章を掛けるのを感じ、気を取り直す。

 陛下に向けて宣誓する。


「我は王族の範を守り、民を慈しむ。我が剣は陛下の剣。陛下により、国民くにたみのために振るわれることを――天地神明に誓う」


 勲章の重みを感じながら、陛下に顔を向ける。

 すると同時に、謁見の間がわっと歓声に包まれ、してやったりと言わんばかりの叔父上の表情が目に入る。


 ……予想以上に大事である。

 俺が叙勲された「紫綬・聖竜星勲章」は、王族の中で、成人した王弟が佩用するようなものである。王位継承権があり、第三位であることを指すもの。


 だが、あいにく俺は王弟ではない。

 本来の俺の立ち位置であれば、アレクと同じ勲章を受けるのだ。

 アレクの勲章である「聖竜十字勲章」は、王族に加入した未成年の男子に与えられる。

 以降、洗礼の時、成人の時など節目や活躍により、勲章が重ねられていく。


 それなのに、俺が与えられたのは成人した王弟に与えられる勲章だ。

 それが意味することは……


「さらに余は、第二公子レオンハルトに対し、『オニキス』の名を与え、第二王女エリーナリウス・サフィラを婚約者として認めることを、ここに宣言する」


 ……そういうことか。

 「紫綬・聖竜星勲章」の段階でもしかしてと思っていたが。

 俺が継承権第三位になるとすれば、王家と婚姻を結ぶこと。


 通常、貴族家に王族が降嫁しても継承権は付かない。

 だが、俺の場合は公家の出である以上、それに嫡子である以上継承権が存在し、厳密に言うとエリーナは降嫁にならない。

 そのままエリーナの位置同等の王族男性になるので、第三位の継承権を得ることになり、勲章の通りになるのだ。


 絶対に分かっていてやったんだろうな。

 ここまでお膳立てされると、国から勝手に出て行くことは出来なくなったといえるだろう。

 とはいっても、洗礼を受けたことを叔父上が知っていたからといって、わざわざ俺やエリーナを国に残しておく理由は何だろか?


 ……まあ、とにかく今はこの式典を無事に終わることだな。

 今は疑問に蓋をして、国王である叔父上を見上げてこう告げる。


「はい、陛下。謹んでお受けいたします」

「うむ」


 謁見の間が、更なる響めきと歓声に包まれる中、叔父上が立ち上がると同時に俺は立ち上がり、右側で跪くエリーナの手を取って立たせる。

 同じタイミングで、アレクも立ち上がり、三人で貴族たちの方に向き直る。


「レオン、これから末永く、よろしくお願いしますの」

「エリーナ、これから末永く、よろしくな」


 拍手を浴びながら、お互い微笑み合う。


「ほら、お前たちは自分の世界を作るな。それは後にしろ……」


 なんか溜息交じりの叔父上の声が背中の方から聞こえる。


「さて、改めてここに、イシュタリア王国第二王子、アレクサンド・オリヴァ・フォン・イシュタリア、第二王女、エリーナリウス・サフィラ・フォン・イシュタリア、第二公子、レオンハルト・オニキス・フォン・ライプニッツを王族として迎え入れる事をここに宣言し、卿等に紹介するものである」

『『『国王陛下万歳! 王子殿下、王女殿下、公子殿下万歳! イシュタリアに栄光あれ!!』』』


 貴族が一斉に同じ言葉を述べ、ここに俺たちは王族として受け入れられたのである。


 * * *


「では、これにて『王族受容の儀』は終了とする。陛下、殿下方、ご退出願います」


 宰相の声に促され、叔父上は上の段から、父上たちと俺たちはその下の段の扉から謁見の間を出ていく。

 控室に入ると同時に一旦エリーナと別れると、控室に先に戻っていた父が声を掛けてきた。


「いや、まさかレオンが『紫綬・聖竜星勲章』を授与されるとはな。どうもウィルが悪巧みしているような感じではあったんだが……」

「本当ですよ父上。何故誰も止めなかったのです?」


 どうも父は知らなかったということらしい。

 もしかすると、父も絡んでいるのではと思っていたんだが。


「こればかりはな……それにレオン、お前としてもエリーナ姫との婚約は嫌ではないだろうに」

「それは当然ですね」

「即答か……」


 全く……エリーナをどこの馬の骨とも知れない奴に……いかん、この台詞は違う。これでは親だな。

 とにかくこれで、少なくとも離れ離れは避けられる訳だ。


「まあ、なんだ」


 エリーナの婚約について色々考えてしまっていたが、父の声でそちらに意識を向ける。


「王族への正式加入、そして婚約おめでとう、レオン」

「……ありがとうございます、父上」


 俺は父に頭を垂れる。

 父の祝福は、言葉少なながら心のこもったものだった。




 ……なお、その後開かれた会食と舞踏会では、エリーナと一曲ダンスを踊ることができた。

 まあ、以後ずっと壇上の椅子に座り挨拶を受けるだけの置物と化していたのだが。

 その日の夜は、俺もエリーナもアレクも気を失うように寝るのであった。

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