E氏、どこ行くの(箸休め)

 自分の職場の向かいの座席の住人であるE氏は、東京生まれの東京育ち、つまり東京男だ。スレンダー、眼鏡、会計系職人。どれもが彼の魅力だが、何より自分で考えるから、結果として個性的に生きている。


 午前10時頃、E氏と向かい合ったデスクで互いに無言のまま仕事に没頭していて、急に自分のデスクの上に飲み物が無いことに気が付いた。はっとした。だめだ。職場では1日に合計1.5リットルの水を飲むというのが自分ルールなのだ。


 財布代わりのモバイルSuica入り携帯をさっと掴む。ただ、それだけでは何やらサボりに行くように見えるかもしれないので(自意識過剰なので)、必ずポーズとしてそれを手帳に挟む。


 それで無言でさっと立ち上がった。


「よし」


「あれ。どこ行くの」


 E氏はキーボードに両手を置いて、画面を凝視していたその姿勢のまま、目だけをキョロ、と動かしてこちらを見上げてそう言った。


「いや、お茶買いに行くだけっす」


 するとE氏は「はっ」と息をのみ、言った。


「お茶会……?」


(終)※9割強実話

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る