大と唯 水族館デート

「ゆー君見てみて!!晩ご飯になりそうな魚がたくさんいるよ!」


「ここでそういうことを平気で言えるお前が俺はすごいと思うぞ!?」


★ ★ ★ ★ ★


 大小様々な魚たちが水槽の中で泳いでいる。そう、ここは水族館。

 にもかかわらず大変不謹慎なことを言ってのける自分の彼女に思わず大声で突っ込んでしまうゆたかなのだった。

 ゆたかたちが住んでいるところから、電車で少ししたところに新しい水族館ができた。そのときからいつかデートで行こうかな、なんて考えていた矢先。


「ゆー君!新しくできた水族館のペアチケットが当たったんだけど今度のお休みにデートしよ!!」


 という言葉とともに満面の笑みで家に上がってきた我が彼女のおかげでこうして楽に来ることができたのである。


「しかし、ほんとお前って運良いよな…」


 水族館特有の少し圧迫された雰囲気を感じながら隣で目を輝かせながら魚を見る彼女に向かってつぶやく。

 まあ以前から唯の運が良いと感じることは多かった。なんか知らんが商店街の福引きで霜降りの肉を当てたとか言って家に来たときから特に。


「確かに。うん。あたしは運が良いのかも!でも一番運が良いのは……」


 そう言ってどこかニヤニヤした様子でこちらを見る唯。若干頬が赤いような。


「……何だよ?」


「なんでもなーい」


 結局何も教えてくれないまま唯は次の水槽に向かってしまう。なんだか腑に落ちないものを感じつつ、ゆたかはその後に続くのだった。

 しばらくして、館内の人の数がかなり増えてきた。


「やっぱり新しいだけあって、人は多いか…。唯、あんまり離れないように――」


 ……いない。ついさっきまで、すぐそこの水槽でマンボウとにらめっこしていたはずなのに。


「まさかの迷子か…どこ行ったかな…」


 携帯で連絡を取ろうとするが、電波が悪い。


「うーむ。あいつが行きそうなところか……」


 今までのデートでも何度か離れてしまったことがあるため、その経験から唯がいそうな場所を考える。


「まあ、あそこかなぁ」


 おそらくいるであろう場所を導き出し、ゆたかはそこに向かうのであった。


「あ、ゆー君来た!」


「あ、やっぱり居た」


予想通り水族館入口に唯はいた。


「やっぱりここに戻って来るよね!」


ほっとした様子で、しかしどこか嬉しそうに笑顔を浮かべる唯。


「そだな。前もこんな感じだったし」


いつだったかこうやって唯が迷子になった時があった。

そのときはまあ、探すのに苦労したのだが。最終的に入口まで戻ったら泣きながら抱きついてきたのを互いに覚えていたのだろう。

 

「今度は迷子時間短かったね!」


「迷子時間ってなんだよ…」


苦笑いしながら近づいていく。


「ほれ」


そう言って手を差し出すゆたか


「?」


キョトンとした顔でその手を見つめる唯。


「…だからっ、人も多いしまたはぐれられると困るから!」


「……ぁ」


なんだか無性に恥ずかしくなって強引に唯の手をとる。


「えへへっ」


嬉しそうにその手をきゅっと握り返してきた。何度も握っているのに、中々慣れない。


「あのね、ゆー君。さっき、私が言いたかったのはね…?」


繋いだ手をさらに近づけるようにして、身を寄せてくる唯。互いの体温が伝わってしまいそうな距離で、こっそりと耳打ちしてくる。


「あたしが運がいいって思ったのはね…」


「ゆー君っていうほんとに素敵な人とこうやってお付き合いできてる事なんだよ…?」


なんてことを、嬉しそうに、しかしどこかからかいを含んだような眼差しで伝えてきた。


「…そりゃどうも」


返事は素っ気ないが、きゅっと唯の手を握り返すゆたか。顔が真っ赤になっているのを自覚しているのだろう。その顔が唯を直接見るようなことはない。

だがそれでも、唯は本当に嬉しそうに微笑むと、もう一言添えた。


「ゆー君のこと、大好きだからね!」


普段の生活ではマウントを取っているゆたかだが、肝心の恋愛部分では先手を取られまくっている ゆたかなのだった。

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