第9話 ちょうど僕もこの映画を観に来たんですよ。

 私は頭がぽわ〜っとなっていた。

 だっ、だって。

 あんなセリフ……「あなたが気になって」とかなんやらかんやら男の人から言われたことなんて、私の人生29年めまでにただの一度も、そうただの一度もなかったからだ。


「あとは僕も北条さまと一緒ですよ。この映画を観るために今日はここに来たんです。僕は急遽バイトを休みにしてもらって。気合いを入れてきました」


 それにしたってすごい観察力だ。


「だってこの映画と同じ時間から上映する『ゾンビのすすり音』という映画はあなたに似合いませんから」


 はあ。

 感服いたします。


 私はこうしてイケメン王子様にエスコートをされながら人生初の男性と共に映画を観るという長年の憧れのドキドキのシチュエーションに飛び込もうとしていました。

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