この世界のこと

ナキに出会ってから3ヶ月。

どうやらナキの言っていたことは全て本当みたいだ。


まず最初に俺のいた部屋は、ナキの部屋なのだが、これが驚くほど大きなお城の中の一部屋であった。


俺のアパートの部屋の何倍もの広さの部屋。


そんな部屋がいくつもあるが、ナキの他には誰も住んでいない。


魔王なのに、と思ったが、魔界にも色々あるらしい。


この魔界では現在3人の魔王がいて、均衡を保っている。


第一魔王 アボロギス

第二魔王 ガイラス

そしてナキが第三魔王。


アボロギスが4割、ガイラスが4割、ナキが2割のバランスらしい。どう見てもナキが一番勢力が小さいのだが、本人曰く、一番強いから他の魔王は手出しが出来ないようだ。


そもそもナキは勢力争いには全く興味がない。300年前に起きた魔界闘争においても、軍を率いて戦うことはせず、売られた喧嘩を買っていただけらしい。


このゴスロリ猫耳魔王様は、もうご存知であると思うが、おそろしく自由だ。

そして、その自由が侵害されることを何より嫌う。


実はナキはもう1000年以上!生きているらしい。


その1000年の間には沢山の抗争があったが、ナキは一度も軍を率いたことがない。


自分一人で好きなように闘い、勝利してきた。


今ナキの領地と言われる場所は、ナキの好きなものがあるところ。砂浜や花畑。ダークエルフの住む深い森。ライオンの様な形をした大きな岩。そういうものを全部合わせて、魔界の約2割なので、ナキの勢力は2割と言われている。


もちろんナキを慕う者もいて、それがナキの国の住人となっているのだが、国家としての機能は成立していない。


ナキは自分に好意を持つ者に対して、まるで友達の様な接し方をする。


一対一の関係とでも言えば良いだろうか。


それが仕立て屋であろうが、卵農家であろうが、ダークエルフのハチミツ屋であろうが、普通の友達のように話しかけ、また話しかけられる。


国家としての形を持たないので、ナキの領地での生活は、決して派手なものではない。

むしろ慎ましいと言うべきか。


それぞれの小自治体が、必要なものを作り、生業としている。必要があればそれを取り引きし合って、うまい具合に成り立っている。


「ガイラスもワタシと似ているかのう」


第二魔王ガイラスは鳥の魔物らしい。男気溢れる魔王らしく、自分を慕う者を潤し、徹底的に守るために、国家を築いているのだそうだ。


ナキとの決定的な違いはそこだろう。


ナキは自分の好きな者に対して、牙を剥くものを決して許さない。何かあれば、圧倒的な力で、それを排除しにかかる。


それ以上でもそれ以下でもない。


「ワタシは皆に何かしてほしい訳ではないのだ。ワタシも、好きなことしかしたくない」


ニコニコ笑ってナキは言う。


言ってしまえば、超絶めんどくさがりで、超絶ワガママなのだ。それが第三魔王ナキ。


俺から見たら理想的に感じるが、それを良しとしない者もいる。


アボロギス。第一魔王にして、この魔界の一番の勢力を持つ。


「アボロギスは回りくどいからの。ワタシは嫌いなのだ。」


少し不機嫌になりながらナキは言った。


「アボロギスは魔界を一つにして、地上界に打って出たいのよ。」


「地上界??」


また新しい言葉が出てきた…


「そう、地上界な。ジョーイのような人間や、獣人、エルフの住む世界でな。」


地上界。まさかそんなところがあるとは。


この魔界に住み始めてから、ナキの遊び相手をしながら(ナキの行きたいところに連れていかれたり、お腹が空いたと喚いたらご飯を作ったり。居酒屋テンチョのスキルがこんなところで活かされるとは…)ナキの領地を色々見ていたが、たしかに人間はいなかったし、そういうものだと思っていた。


「人間がいるのか??」


俺は思わず大声を上げた。


「人間もおるぞ。なんだ、気になるか?」


「そりゃね、気になるよ。地上界に行ってみたい!」


人間がいると分かったら、グングン興味が湧いてきた。この世界の人間は、どんな暮らしをしているのだろう。


「地上界には行けぬのだ。」


珍しくナキが少し困った顔をして言う。


「昔な、地上界と魔界で戦争があっての。双方で大きな犠牲が出たのだ。」


「戦争??」


「昔はな、地上界にも魔界にも、自由に皆が行き来出来たのだ。だがその戦争が終わってから、ワタシと人間王の間で協定を結んでの。不可侵条約が結ばれたのよ。」


「なんで戦争なんか起きたんだ??」


「アボロギスよ。ヤツと、当時の人間王ジュラスの諍いから、地上界も魔界も巻き込む大きな争いになったのだ。」


アボロギス。ナキの嫌う魔王か。確執はその辺からあるのかもしれないな。


「ワタシはな、人間にも獣人にもエルフにも友達がおった。もう300年以上会ってないから、とうにこの世界にはおらぬだろうがの。」


この自由人は、地上界も魔界も関係なく、友達がいたのか。まあ納得してしまうが。


「アボロギスはな、まず人間を配下に収め、そこから地上界を支配して、この魔界をも手中にしようとしていたのだ。」


ナキが話し続ける。


「だがな、人間王ジュラスも強かった。獣人やエルフたちと結託して、地上界連合を作ってな。アボロギスは今よりも勢力を持っていたからの。それは大きな戦争だったのだ。」


まるで絵本の中の話みたいだ。子ども向けのファンタジー話を聞いているみたいでどうにもピンとこない。が、いつもより真剣な面持ちで話すナキを見て、俺は黙って聞き続けた。


「ガイラスはな、元はアボロギスの部下だったのだ。」


意外!!男気溢れると言われる第二魔王が、ナキ曰く卑怯者のアボロギスの元にいたとは。


「ワタシも手を貸せと再三言われたがの。」


「めんどくさいから断った。」


出た!自由人!この人はずっとそうなんだな。


「でもさー、ナキだって魔界の住人じゃん?魔界を守らなきゃとか思わなかったの??」


「さっきも言ったろう??ワタシには地上界にも友達がおったのだ。なんで友達と戦わなければならないのだ??」


「そんなのつまらないだろう??ワタシは楽しく遊びたいだけなのだ。」


ここまでブレないとは流石だ。むしろ尊敬すら覚えるくらいだ。


「人間王ジュラスもな、友達だったのだ。」


ええ!!??

この人の話はスケールが壮大すぎて、段々とついて行けなくなる。


「それでな。ワタシはジュラスのとこに行ってな。」


「もう無駄な戦争はやめようって話したのだ。」


なんちゅーパワープレイ…まあこのゴスロリ姫だったら想像もつくが…


「それで話がついたの??」


「無理だったな。」


そりゃあそうでしょうよ。魔界から攻め込まれて、大きな戦争になって、やめましょうって言われてもね。


俺が人間王でもそうだろうな。


「だからな、言ったのだ。ワタシがアボロギスをおとなしくさせるから、そうしたら地上界連合も解散するようにな。」


ジュラスって人も、さぞかし面食らっただろうな。


「ジュラスは何も答えなかった。だからな、ワタシはアボロギスをおとなしくさせて、それで地上界連合も解散させたのよ。」


え?え?何言ってるんだこの人…


提案から結果までの話が一瞬すぎるだろ…


「え??じゃあナキが戦争を終わらせたってこと??」


「まあそういうことになるのかもな。」


さらっというよね。ジュラスって人も、勢いに押されたんだろうな。


「それでジュラスとワタシで話し合って、お互いがお互いの世界には立ち入らないことにしたのだ。地上界と魔界で有数の魔導師を集めて、結界を作って、お互いが行き来出来ないようにしたのだ。」


なんかもうスケールが激しすぎて、何がなんだかよく分からないけど、これが本当なら、ナキは本当に物凄いやつなんだろうな。


猫耳少女にしか見えないけど…


「だからの、ジョーイが地上界に行きたくてもの…行くことが出来ないのだ。」


「そうかー。」


少し残念な気もするが、あまりにも壮大な話を聞いたあとのせいか、落胆する気持ちは正直少なかった。


「…ごめんな。…」


今にも泣き出しそうな顔で、ナキが呟いた。


「いやいやいや、全然良いって!」


その顔を見て焦ったのは俺だ。


「ナキのせいじゃないし!そもそも俺がこの世界に勝手に輪廻してきたんだし!」


どうしようどうしよう。思いがけぬ雰囲気にアワアワしてしまう。


「だからな、ナキのせいじゃないからな!気にすんなって!な!」


こういう時に、熟練した男ならいざ知らず、俺には経験値がなさすぎて泣ける。


「こうしてナキのところに輪廻出来ただけでラッキーだよ。」


何を言っても空回りしているような気分で、何を言っているのかもわからなくなる。


だけどナキには伝わったらしい。


「そうか!そうだの!」


ナキはパァっと顔を輝かせて、ニコニコし始める。


「ジョーイはここに来れてラッキーだの!」


良かった。本当に良かった。泣かれなくて良かった。


俺は安堵の溜息を漏らしつつ、思った。

本当に、アボロギスのとこに輪廻したら、一体どうなっていたのだろう??


とりあえずまだよくわからないが、このコスプレ魔王様の元に来れたことは、ラッキーだったのかもしれない。


アボロギスとのことをもっと聞きたい気もしたが、どうやらそういうムードでも無いし、何よりそれでまたナキが泣きそうになったら、今度こそ俺には何も出来ないだろう。


また今度聞かせてもらうとしよう。


「ナキ、そろそろお腹空いたろ?ご飯作ろうか??」


「うん!ご飯!!」


ニコニコしていたナキが、更に顔を輝かせた。

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転生したら魔界でした列伝 〜第三魔王と炎魔のジョーイ〜 弥栄珠柔 @kalmsml13

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