再会はもうない

遠回りな入り口

 重たい買い物の荷物をすべて所定の位置にしまう。お茶にしましょかね、と姑は言った。もちろん、お茶を淹れるのは私である。夫は一緒に帰省しても手伝ったことなどない。私の実家に行っても身支度は私が行う。苦い顔をして見ているのは知っているくせに。

 姑のためにお茶とお茶菓子を用意する。小言を聞いて食べ終わったら電球を変えてやらなければならない。ちょっとトイレ行きますね、と姑に3回言うと、家の隅の方にある、昔ながらのトイレに向かった。

 夫は実家にいるときに怖がってあまり近づかなかったという。実際、遠くて不便だし日当たりも悪い。夜に来るのは怖いだろう。3年前、リフォームをして仏間の隣に新しくトイレを設置したらしい。そちらは多機能便座がついている。

 わざわざこちらの古いトイレを使うのは、一秒でも長く姑と顔を合わせずに済むこと、それから私には利点がもう1つあった。

 トイレの天井の板を外すと、『庭』に通じる入り口がある。有休を使ってまで『庭』に行くためにここに来たのだ。

 天井まで上がり、少し奥の方に進むと、まるで狸のねぐらのような穴に通じている。穴から出て休憩し、少し坂を下ると、『庭』はあった。

 西洋式の庭で、4つの花壇が噴水を取り囲んでいる。そして、寝巻き姿の青年が芝生の上に寝そべっていた。

「また来たんだね」

 青年、タカユキという名前だ、は少しだけ体を起こす。そのままでいいから、といった。

「具合は?」

「今日はいいほう」

 そう、と私が言うところまで全くいつも通りである。私はタカユキの頭の近くにしゃがみこみ、近況報告を始めた。

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