明暗分かれる二つの国

王国戦士長と

「そろそろか。」

 ユグドラシルと同じなら、そろそろこの辺りのフィールドを支配できるはずだが・・・。

「ふむ、実験成功だな。ホー・クトよお前は感じたか?」

「はっ、マスター。この地の支配権しかと感じております。」

「そうか、では、当面の間この地の防衛を任せる。」

「御意!」

 う~ん、色々とユグドラシルとは違う中、まさかフィールド支配が有効のままだったなんて・・・、まさかリアルに出来るとは思わなかったよ。


 フィールド支配、ユグドラシルの大規模アップデートで追加された要素で、自身の指揮する部隊が、敵対している存在が居ないフィールドに一定時間いると可能になるというもので、この支配したフィールドはある程度自由に環境を替えたりできる様になる、というのがユグドラシル時代の仕様だったのだが。


ん~、環境を替えたりは出来無いっぽいな~。この辺りはマーレか自分でザ・クリエイションを使って弄るか・・・。軍団関係の施設も自力で何とかしないといけないな。一つ実験がうまく行くとまー、課題が出てくる出てくる。一人では到底処理しきれない。


「モモンガ様、この地の支配権を?」

「あー、正確にはこのカルネ村周辺だな。グレンデラ軍で囲んだ範囲に支配権が及ぶようだが・・・、現状だと、ユグドラシルと様々な点で違いすぎる。なので、これから探り探りだな。」

 それに、ここは彼女達の生まれ故郷でもある。その事を踏まえるとこれ以上の実験は控えておかないとな。


 そんなことを考えていると。


「モモンガ様、そちらに近づいている部隊を二つ発見いたしました。」

「流石デミウルゴス、仕事が早いな。して、詳細は?」

「はっ、一つは皮鎧などを着込み装備などが統一されていない部隊ですが、装備自体は使い込まれている、戦士と思われる集団です」

「なるほど、そうなると実戦で鍛え上げられた部隊か。」

「は、おそらくは。それともう一つの部隊は装備が規格化されています。また装備を見る限りですと、魔法詠唱者のみで構成された部隊となります。」

 ふ~む、一点特化型と言えば聞こえはいいが・・・。

「随分と極端な編成をするのだな、この世界の軍は。」

「はっ、予想の範囲を未だ出ませんが、それほど発展していない文化なのかもしれません。」

「まー、それはな・・・。この村を見るだけでもわかる所だが。この地域だけの可能性もまだ否定するべきではないな。」

「はっ、その通りかと。」

「では、デミウルゴス引き続き周囲の監視を頼む。出来れば、どちらかもしくは両方から有益な情報を得られるように動いてみる。」

「畏まりました。」

「因みに、どちらの部隊と先に接触しそうだ?」


 リ・エスティーゼ王国戦士団。

 この戦士団は、王国で最強と名高い、ガゼフ・ストロノーフ戦士長を主軸とし平民出身者のみで構成された叩き上げの戦士団である。

 だが、この事を快く思わない貴族達によって、今回彼らは戦士長の装備を王から下賜されたものを使うなと横やりを受け、それを退けることが出来ずに出撃している。万全と言えない状態での行軍を行っているのだ。

「戦士長・・・。」

「言うな、解っている。」

「しかし!・・・はっ。申し訳ありません。」

「すまんな、我儘につき合わせて。」

「何を言ってるんですか・・・。今に始まったことではないじゃないですか。」

 急に口調を替えた副長に苦笑いで返しつつ、ガゼフ・ストロノーフは地面に残った目新しい軍馬の蹄の後を追いかける。


「ん?あれは・・・、こんなところに人だと?」

 見慣れない緑色の服を着た、一人の二十代半ば頃の人物がこちらに止まれと身振りをしているのが目に入る。

「強いな。」

「隊長・・・。」

「まずは、私が話をする!」

 後続の者たちにも伝わるように大声を出しながら、少しずつ馬足を落としていく。

 やがて目の前に色白の緑の服の男性がはっきりと見えるようになってくる。体つきは華奢に見えるが・・・、ふむ、体感がしっかりしているし、あの歩き方は何かしらの行軍訓練を積んでいるようだが、なにか違和感を感じるな。

「馬上から失礼する!私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ!貴殿の名前は!」

「我が名は、ホー・クト。グレンデラ自衛軍北東遊撃隊隊長の任を預かっている者です。」

「ふむ、申し訳ない、グレンデラとは聞いた事の無い名の軍だが、どの国からいらしたか!」

「どの国からですか・・・、」

 少しの間があり話す内容が纏まったのか。

「失礼。実は私たちは、主人が行っていた転移魔法実験の失敗により、つい数日程前にこの近くにある森の中に転移してきたばかりでしてな。」

「転移魔法ですか。」

「えー、その話は後で、我が主と話されると良いでしょう。今は先にご報告したいことがありまして。」


「何だこれは。」

 クト殿に案内されて来た村、確かカルネ村と言ったはずだ。そこには天使とアンデッドと、その周囲を囲む緑の軍隊がいた。そして、その中心には、黒髪黒目、私と同じ南方出身の特徴を持った、三十半ばの魔法詠唱者風の、いや恐らく魔法詠唱者で間違いないだろう男性と・・・、禍々しささえ漂う黒い鎧を着こんだ恐らく女性、赤い髪の年若い可愛らしい女の子と言って良い見た目の天使が居た。


 王国か~、この村が所属する国だな。しかし、タイミングが良すぎる。

「デミウルゴス、このホーから報告があった戦士団どうみる?」

「そうですね・・・。餌に吊り上げられた魚・・・でしょうか?」

う~ん、辺境の地で敵対国に偽装した部隊で村を襲わせ、その後本命の部隊で襲い。証拠隠滅で村ごとか・・・。

「その予想が正しければ・・・、話は出来るか。後続の部隊は?」

「王国戦士団到着後三十分程で、モモンガ様のおられる村に到達するものかと。」

「わかった。一応そちらもホーに一度接触させる。私は戦士団の者と話す為、その間ホーのサポートを任せる。」

「はっ。では失礼します。」

 ふ~、どう転んでもきな臭い話であるのは間違いなさそうだな・・・。

「アルベドとルベドよ、これから王国の戦士団と話をしてみる。この辺りではアンデッドは忌み嫌われているようなので、念のために人間に代わる。」

 俺はそう言いつつ、肋骨の内側にいるルベドを出し・・・、残念な顔をするなー。

「ルベドよまたあとでな。」

「わかった、後でいっぱいしてあげる。」

 あー、かわいいーって違う・・・。モモンガ!女性に対する姿勢が緩すぎだぞ。今は気を引き締めて事に当たる時間だ。


 しかし、何とも奇妙な光景だ。と、ガゼフは思っていた。

 前衛には身の丈が優に二メートルは超えるであろうアンデッドの騎士・・・、正直勝算は五分と言ったところだろう。クト殿を改めて見る・・・、勝てんな。

 そして、周囲には天使が無数にいる。数えるのもバカらしい数だ。これも勝てるかどうか・・・。しかも、これは王から下賜されている装備を付けた状態で、だ・・・。

 これは、敵対してしまえば王国は終わってしまうな。さて、どうしたものか・・・。

「マスター、こちらは、リ・エスティーゼ王国王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフ殿です。」

 おっと、いかんいかん。

「お初にお目にかかる。私はクト殿に紹介された通り、この国を治めるランポッサ三世王に仕える、ガゼフ・ストロノーフと申します。」


 名前かー、名前・・・、背負うか。

「これはご丁寧に。私は、アインズ・ウール・ゴウン・ナザリック=グレンデラ・スズキ=モモンガ=サトルと申します。」

 そう、俺はあの場所を守る。そして、人間だった頃も忘れはしない。これは、その心を忘れない為の楔だ。

「何処かの王族とお見受けするが、何分私は見た通りの粗忽者でして、言葉使いが成っていないかもしれないがご容赦願いたい。」

「なに、私もこの辺りの礼儀には疎い身です。お気になさらずに。お互い気軽に行きましょう。」

 ふむ、取り合えず、話をする気自体はあるみたいだな。

「それはありがたい。それで・・・、サトル殿とお呼びすればいいかな?」

 ん?あー、名性の順か~。

「なるほど、そこからして違うようですね。ストロノーフ殿。サトルというのが名に当たりましてな。」

「あー、これは失礼を。」

 ストロノーフ殿は頭を下げようとしているが、

「いえいえ、お気になさらずに、これで、私の事を知らない地だという事が確定しました。この事から私が住んでいた地域からかなり遠くという事がわかるというもの。」

「そう言っていただけると、こちらとしてもありがたい。さて、早速なのだが、よろしいか。」

 まー、この状況の事を聞くよね。

「はい、何でしょうか?」

「この村の住人はどうなっていますか?」

 ほう、まずは住民の安否か、この状況を、天使とアンデットが共存しているのを聞いてくるかと思ったが、なかなかどうして・・・、正義感か、義務感かどちらか分からないが好感は持てるな。

「残念な事に私たちがこの事態に気付きこの村に駆け付けた時には、五名の生存者しか居らず、その方々しか助けることが出来ませんでした。」

「そうか・・・。」

 ふむ、かなり真面目な方のようだ。

「その五名の生存者は、既に私の保有する拠点へと移し、今は休息をとってもらっています。」

「なるほど、王に代わり、王国民を救ってくれたこと誠に感謝する。」

 ちゃんとやることをやる。当たり前だけど、出来ない人が多いんだよなー。

「ストロノーフ殿、顔を上げてください。私たちとて、決して間に合ったというわけではないのですから。」

「いえ、それでも、無辜の民を救っていただいた礼を失する訳にはいきません。」

「では、その思いお受け取りしましょう。」

「感謝します。それで、その生存者の方たちとはすぐに面会できる状態でしょうか?」

「そうですね、私の配下の者に彼らの事を任せているのですが、今のところ落ち着いているようです、が、かなり酷い目に合っていたのも事実。個人的にはもう少し時間を置いてから、ストロノーフ殿と引き合わせたいというのが本音です。」

「なるほど・・・、そうですな。」

 ガゼフ殿は村の様子を一瞥して、

「では、生存者の事もう少しお願いしてもよろしいか?」

「はい、それに関しましては、この私の名に懸けましてお約束しましょう。」

「では、この事に関してはまた後でという事で、この村を襲っていた不埒者どもはどのような手段で撃退されたのだろうか?」

「はい、今周囲警戒をしていますホー・クトが指揮する軍で制圧しまして、その後村を襲っていた者たちはアンデットへと、この村の方たちは、私の後ろに控えている高位天使の祝福を与え、天使へと昇華させています。」

 俺はルベドに視線を送りながらそう説明をすると。

「な・・・、なんとそのようなことが出来るのですか。」

 ふーむ、創造系のスキルや招喚系魔法の保有者が居ないのかな?

「えー、彼女はかなり位階の高い天使なので。」

「そうか・・・、そうですか。では、この天使達は生前の記憶を持っているのですか?」

「いえ、天使に昇華し終えた時点で生前の記憶はありません。アンデットにした者たちも同様。」

「ふむ、出来ればこの村を襲った者に関しては証言者が欲しかったのだが。」

 ここだな。

「ストロノーフ殿。その事なのですが。心配には及びません。ここに別動隊が近づいているので、此度の件の詳細はそちらの方々にお聞きするとよいかと。」

「なに?・・・そうなのですか?」

「えー、私の予想では、この度の村の件は、何かを誘き出す為ではないかと思っているのですが。ストロノーフ殿、なにか心当たりはありますか?」

「ふむ、アインズ殿に心当たりがないとなれば、私でしょうな。」

「そうですか。ストロノーフ殿は随分と人気者のようで。」

「全く困ったものです。では、その者たちはこちらで相対します。」

 こちらも一枚噛ませてもらいますよ。

「その事なのですが、私もこの様な事態を引き起こした相手に関しては憤りを感じておりまして、出来れば同行をしたいのですが。」

「それは・・・、」

 ストロノーフ殿は周りを見ながら・・・、迷っている?

「些か過剰戦力ではありませんか?」

「そうですか?戦いの場で絶対はありません。様々な手を講じるべきだと思っていますのでね。」

「しかし、これ以上関わりますと、流石に王国との関係性が密になりますが・・・。」

 そこを気にするか。ほんと真面目だ。

「それに関しては今更ですな。ここまでやっておきながら、静観を決め込むのは少々責任感が無さすぎるというもの、せめてこの件の実働を行ったもの達ぐらいまでは、関わらせていただきたい。」

「そうですか。貴方は実に真面目な方だ。」

「そうでしょうか?私は我儘なだけですよ?」

「ふふ、ご謙遜を。では、ご同行願えますか?」

「喜んで。」

「とはいえ、これだけの戦力を前にして、相手方の戦意が持つかどうか。」

「それに関しては、見せないと何とも言えませんが、戦力差を冷静に分析すれば、ここで私と敵対することはまずいと思うはずです。」

「そうであれば、楽でありますが。私が目的でここまでの事をしでかす輩たちです。なにをするか解りませんしな。」

「では、私ども精鋭の天使とアンデット軍で戦士長殿をお守りいたしましょう。」

「ハッハッハ!それは、心強い。」

「では、行きましょうか、ストロノーフ殿。」

「ガゼフと呼んでください。」

「解りました。ガゼフ殿。私の事はサトルと呼んでください。」

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