第17話 サンプルをどうぞ

「まあ細かいことは気にしないでください。それよりもジークさんたちは冒険者ってことは、魔物退治に来たんですか?」


 冒険者が魔物退治をするのはファンタジーの定番だもんね。


「ああ。キング・スネークを追って来たんだがここには来なかったみたいだな」


 ジークさんの言葉に私は思わずコッコさんを見てしまう。


 さっき、出ましたよ。コッコさんに瞬殺されて、今は私の腕輪の中に保管されてます。

 ……とは、言えないよね。


「お仲間の人の毒、消えるといいですね」

「あの品質ならば大丈夫だろう」

「品質が分かるんですか!?」


 とりあえず色々と作ってみるけど、私にはその品質がどうかまでは分からない。オコジョさんが見てくれてるけど、未だに最高級の凄い効果つきの物は錬金できていない。


「鑑定持ちだからな」

「へ~。いいですね~」


 いいな~。便利そうだな~。

 『鑑定』っていうのを持っていれば、見ただけで使える素材かどうか分かるってことだもんね。羨ましい。


「君はさっき魔女ではないと言っていたが……。その……、もしかして魔女の娘なのか?」

「魔女の娘でもないです」

「だが、その目は……」

「目?」


 目が、どうしたんだろう。


「もしかして知らないのか? 赤い目を持つ者は、膨大な魔力を持つ」

「そうなの!?」


 そんなの初めて聞いたよ。


 それに、もしかして私の目の色って、赤くなってるってこと?

 鏡がないから知らなかった。普通に黒髪で黒目だと思ってたよ。


 ヒラヒラのロリータ服を着ている姿を直視できなくて、鏡の存在は忘れたことにしてたけども、家に帰ったら鏡を錬金で作ってみようかな。


 もし、レシピがなかったらオコジョさんに出してもらえるか聞いてみよう。


「いやでも、もしそれが本当で魔力があったとしても、私、魔法は使えないんですよね」


 ほら。ファンタジーの定番だと、主人公は魔法か剣の凄い力を持ってるから、もしかして私にも隠されたそんな力があるのかもしれないと思って、色々試してみたんだよね。


 剣は持ってないから包丁をちょっと振り回してみたんだけど、オコジョさんにけがをするからやめて、って必死に止められた。


 魔法もこっそり試してみたけど、うんともすんとも言わない。


 カッコつけて「ファイアー」って言った後に何も起こらなかった時の、コッコさんの三白眼といったら――


 うん。一生忘れられないほどの迫力でした。


「できるのって言ったら、錬金くらいかなぁ」


 それは才能あると思うんだよね。そのおかげでこの世界に来れたわけだから。


「もしかしてさっきの解毒薬も君が作ったのか?」

「そうですよ」

「他にはどんな物を作っている?」

「えーっと、ポーションとか、タオルとかご飯とか」

「……色々作っているんだな」


 まあ、作らないと普通に生活できないからなんだけど。


 だって本当に何もない部屋だったんだもん。家具だけはオコジョさんが出してくれたけど、調理器具とかお皿とか、そんなのも全部自分で作らないといけなかった。


 楽しかったからいいけど、今の快適な生活を送るまでは色々と不便だったなぁ。


「あっ。そうだ。ポーションって売れるんでしょうか」

「品質にもよると思うが、売れると思うぞ」


 品質か~。そうだよね、品質は大切だよね。

 一応粗悪品ではないけど、普通クラスだから、あんまり高値では売れなさそうだなぁ。


「だったら、こういうのも売れますか?」


 私は腕輪からポーションを出してジークさんに渡す。

 もしこれが売り物になるなら、町に行って売りたい。


 そして売ったお金でお肉を買いた~い!


 もしかしたらさっきキング・スネークを倒したことで、錬金の本に蛇料理が増えてる可能性もなくはないけど、蛇は食べたくない!


 いやでもちょっと待って。

 もし蛇を使った料理で、最高級うな重と同じ物があったらどうしよう。

 蛇と万能調味料のコラボで、最高級うな重を作れるとしたら――


 ゴクリ。


 そ、それは食べてみるしかないよねっ。

 だってそれはもう、蛇じゃなくてうなぎだから。

 キング・スネークっていう名前のうなぎだったってことだもんね。何も問題なし。


「一口もらってもいいか? 代金は払う」

「いえいえ、お金はいりません。サンプルで差し上げますよ~」


 そもそも、売り物になるかどうかも分からないしね。


 ポーションを受け取ったジークさんは、瓶をじっと見たあと、ゆっくり口に含んでいった。


 どきどき。売り物になるといいなぁ。


「……甘い」


 思わず、という風に呟かれて肩を落とす。


 う~ん。甘すぎてダメなのかなぁ。

 そうだよね。ポーションなんだから、甘さよりもすっきりとした味わいが必要だよね。

 高品質の物が作れるようになったら、そんな味に進化するのかなぁ。


「ダメでしたかぁ」


 売ろうと思っていっぱい作ったんだけどなぁ。

 何か他に売れそうなものってあるかな。


「いや、こんなに口当たりの良いポーションを飲んだのは初めてだ。ぜひ俺たちに譲って欲しい」


 え、そうなの?

 おいしいの?


 やったー! じゃあ売り物になるね!


 つまり……。

 お肉が近づいてきたー!

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