欲張りな犬 Rewrite

イネ

第1話

 庭先に『交換商』なんて看板を掲げますと、もうあっという間に客が押し寄せたのですから、あの欲張りな犬には確かに商才もあったのです。

 どんな物でも交換してくれるというので、カラスなどは犬の体につくノミを食べさせてもらう代わりに、自分の羽根のいちばん長いところを抜いて差し出しましたし、その羽根を欲しがったネコは、どこかで盗んできたまだ青い林檎をひとつ置いていきました。それから今度はその林檎に、名前もないような小さな虫達が群がったかと思うと、彼らはやがて美しい蝶になり、羽ばたくたびにサラサラと金粉をふりまいたのです。まったく、ビジネスというのはやってみなくてはわかりません。


 しかしそのビジネスも、やっぱりだんだん評判が悪くなってきました。

 カラスはもうほとんど羽根を失って飛ぶことも出来ませんし、ネコは欲張りな犬のために盗みを繰り返します。蝶なんて、とっくの昔に死んでしまいました。なんせ欲張りな犬ですから、損して得取れどころか、はじめからこれっぽっちだって損をするつもりはなかったのです。

 

 ある日、欲張りな犬が大変に満足した様子で野原を駆けて行くのを、私も見ました。頭の悪い金持ちを騙して、つぶれたパンと引き換えに大きな肉を手に入れたのです。口いっぱいにその肉をくわえて、きっとあちこち見せびらかしてから味わってやろうというのでしょう。そんなですから、このあと彼にふりかかった災難のことを聞いたときにも、同情する者はほとんどいませんでした。

 それは、欲張りな犬がその大きな肉をくわえて小川に差し掛かったときのことです。橋の上から川面を見下ろしますと、なんとそこに自分に負けないくらい大きな肉をくわえた犬がいるではありませんか。こうなるともう、欲しくて欲しくてたまらないのです。さあ、得意の交渉術を見せてやろうと、欲張りな犬は川面に向かって一吠え「ウォッホン!」と、ちから一杯やったのでした。このあとのことはもう、皆さんの知るとおりです。かわいそうに欲張りな犬は、自分の口からぽろりと落ちてゆらゆらと川の底に沈んでゆく肉と、川面に映る自分自身の情けない姿とを、だまって眺めるしか出来ませんでした。

 以来、彼はすっかり町の笑い者になってしまい、『交換商』の看板もついぞおろしてしまったということです。

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