第1話…最初の願い、そして二つ目とは

あれ?


なんだろう?


あそこに落ちているのはランプかしら?


アパートの自分の部屋に至る廊下で、擦ればアラジンが出てきそうなランプが落ちていた。


このわざとらしい展開をわざとらしいと気づきながらもわざとらしくランプを擦ってしまった私。


擦ってまだ何も出てきてないのに、願い事を3つ、頭の中で速攻で考え、妄想し始めていた。



ん?


何にも出てこないじゃない。


しかし、自分の部屋に入った途端、


『ボワッ!』


と煙が立ったかと思ったら、


部屋の中には身長の高い魔人らしき男が立っていたのだった。


イケメンでなかったらすぐに部屋を出て警察に連絡をしていたことだろう。


このイケメン魔人は私のために来てくれたのだと自意識を過剰にして話を聴くことにした。


「こんにちは、ご主人様。ご機嫌うるわしゅう……」


あら、本物の魔人だわ。聞いたこともない言語で話しているのに、頭の中では日本語で理解できるようになっている。


「ご存知の通り、三つの願いを叶えられます。早速ですが何から願いますか?」


一つ目の願いを言ったらそれを元に二つ目の願いになるのかしら?


例えば、永遠の若さを保ちたいという願いを言ったら永遠に若くなった私として次の願いが言えるの?それを知りたいと思ったけど、それを聞いたらおそらく一つ目の願いとして捉えられてしまうおそれがあるから言わないようにしよう。


いざ、三つの願いを聞かれると、前提条件や範囲指定が必要となりそうで、願いをするにも頭脳戦のごとく言葉に気をつけなければならない。


このイケメン魔人は涼しそうな顔をしているけど、人間の欲の深さをどのように考えているのかしら?


私が「さらに十倍の願い事を叶えて欲しい」といったら叶えてくれる?でも、三十の願い事を言っているうちに論理矛盾を突かれて、とんでもない不幸な現実になりそうで怖いけど……。


願い事は適度に具体的で、適度に漠然としていた方が良いのかもしれない。


一つ目の願いって難しい。早くしないとイケメン魔人が帰ってしまうかもしれない。


人間の欲の深さを見て、もしかして人間に失望しているとしたら、私が何とかしなければ。そう、私は自意識過剰で誰にも負けないくらいの偽善者になるのだから……。


「それじゃ一つ目は【世界のみんなが幸せになりますように】という願いでお願いします」


自分のしゃべり方、しぐさはわざとらしくなかったか、相手の反応を見て判断をしよう。


「それはお安い御用です」

と、にこやかに魔人が言ったかと思ったら訳のわからない言語で呪文を唱え出した。


「はい、一つ目が終了しました。二つ目の願いは何にしますか?」


あれ?大した反応もなく、いったい何が変わったのかしら?


「一つ目の願いで変わったところはどこなの?」


「それを知りたいことが二つ目の願いでよろしいですか?」


「いや、違うわ。今のは無し。ちょっと考えさせてちょうだい」


「それでは、ちょっと考えさせてあげることが二つ目の願いでよろしいですか?」


この魔人がイケメンでなければ「うざいわ!揚げ足取りが!」と怒っていたことだろう。


「二つ目の願いはちょっと考えるわね」


私はそう宣言し、さらに慎重に考えることにした。


一つ目の願いのあと、私自身はどこも何も変わっていないように思う。見渡す限り何も変わっていないところをみると、やはり何も変わっていない可能性が高い。


仮に、今の世界がすでに幸せであって、不幸があるから幸せがあると考えると、今不幸せに見える人も事柄も実は幸せのためにあるのかもしれないと解釈できる。また、不幸せと判断しているのは誰なのかという問題にもなり、神仏の視点から見ればすでに世界のみんなは幸せなのかもしれない、という説をどこかで聞いたことを思い出した。


世界が変わらないことを知っていて呪文を唱えるなんてこのイケメン魔人、なんて偽善者なのかしら?私以上の偽善者だとしたら、私のプライドが許さない。自意識が高い女は自尊心も高いのよ。


二つ目の願いはこれにしておいてあげる。それは考え抜いての願いであった。


つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る