タイムリープSNS

ちびまるフォイ

きっと後悔する

近所の山に近所の仲良しグループでタイムカプセルを埋めることに。

各々が当時思い出深い品々を入れる中、俺だけは別だった。


「スマホ? どうしてスマホなんて入れるんだよ」


「10年後、掘り返したときにまだつながるか試してみたいじゃん」


「絶対つながらねぇよ」


友達と笑ってタイムカプセルを埋めた。

それから10年後、友達はみな都会に行ってしまい

タイムカプセルの存在を気にかけているのは自分だけとなった。


もうかつての友達の連絡先もわからないので、

10年前にカプセルを埋めた山にひとりで登る。


「たしか、ここらへんだったな」


掘り返してみると、たしかにカプセルは残っていた。

中には今となっては時代遅れの電話が入っていた。


「つながるかな」


電源を入れてみるとまだつながった。

現代の通信とつなげられるのか試そうと、

古い電話のSNSに現代の通信機器と連絡先を交換しメッセージを送った。


>こんにちは。届いていますか


「さて、古い電話で確認できるかな」


メッセージが受信できているか確認するより先に返信が届いた。


>あなたは誰ですか


「えっ? 俺まだ何も打っていないのに!」


送信先を特定してみると、古い電話からだった。

なにか混線したりで間違った宛先に届いているのか。


>私は田中一郎といいます。

 実はタイムカプセルの電話の接続テストをしてまして

 間違った宛先に送ってしまいました。すみません


返信はすぐに届いた。


>田中一郎は俺です。

 今埋めたタイムカプセルのスマホから連絡が来て驚いています


「うそだろ……まさか10年前のスマホが受信しちゃったのか!?」


メッセージの受取相手は10年前の自分自身だった。

時を越えてメッセージのやり取りができるなんて思わなかった。


>私は10年後のあなたです。田中一郎です。今は医者をしています


>すげぇ! それじゃ俺は夢を叶えられたのか!


それからは充電が尽きるまでお互いにメッセージを送りあった。

未来のことはもちろん、過去の失敗など話すネタは尽きなかった。


>そろそろ充電も切れそうだから帰るよ。最後にいいか


>なに?


>さらに10年後の俺はどうなっているんだ?


>そんなのわかるわけないじゃないか


>10年後の俺とこうして連絡が取れているんだ。

 10年後の俺も、さらに未来の自分と連絡取れるんじゃないか?


>その発想はなかった……


次の日、自分の通信機器を取り出しタイムカプセルを準備した。

同じ場所に自分だけのタイムカプセルを埋めた。


そして、埋めた自分の機器に連絡をする。


>10年後の俺ですか?


>はい


「やったやった! 大成功だ! 未来につながった!」


>10年後の未来はどうなっていますか?

 俺は医者として成功していますか?


>いえ


>それじゃ医者は続けていますか


>いえ


「やけにそっけないなぁ、未来の俺……」


>10年後はどうなっていますか?

 俺がよくいった公園は残っていますか?


>10年後の未来は車が空を飛んでいます。

 公園は残っていないです


どこかよそよそしい文体に違和感を感じた。

こいつは本当に自分なのだろうか。


>今でも、カラアゲは大好物ですか?


>食べる量は減りましたが、好物です


カマをかけた質問に引っかかった。

カラアゲは好物じゃない。俺は肉が食べれないんだ。


>お前は誰だ。どうして未来から連絡している!


すぐに返信は来なかった。

考えたように遅れてメッセージが届く。


>騙していてすみません。

 実は未来のあなたから連絡を受けてカプセルを開けました


>未来の俺はどうなっているんだ


>すでに亡くなっています


「俺、10年後にはもう死んでるのかよ!」


>どうして死んだんだ?


>ウイルス感染です。

 それも今から1年後にはなくなっています。

 もっと早い段階でワクチンや予防していれば死を免れます


>俺には治療を待っている患者がいる。

 1年後に死んでしまったらその手術もできなくなる!


>私の指示に従ってください。

 10年前にはまだない予防ワクチンをお教えします。


10年後の誰かに従って、未来の俺に向けての特効薬の開発をはじめた。

未来の医者たちが発表した新時代の医薬品の情報を受け、

現代でも高度な薬を作ることができた。


「やった! これで死なないぞ!」


薬を服用し未来に待ち受ける自分の死を免れた。

それどころか、未来の医療技術を一気に獲得したことで

現代の医者としては最高峰の栄誉を獲得した。


1年後に大規模な手術が必要だった患者も未来の薬で治ってしまった。


「先生、ありがとうございます。これで自由になれました」


「お大事にしてくださいね」


患者を見送ると、すぐに未来の相手へMッセージを送った。


>本当にありがとう。君のおかげで死なないで済んだ。

 せめて名前だけでも教えてくれないか


>それはできません


>どうして? 君を必ず見つけて、感謝したいだけなんだ。

 君のおかげで患者の命を救うこともできた。

 それを直に合って伝えたい


しばらく間があった。ためらっているのがわかる。

俺はなおも教えてくれと言い続け、ついに引き出すことができた。


>私は、小早川美鈴 とです


>ありがとう。必ず見つけて、ありがとうと伝えるよ。

 でも、どうして名前を教えるのを渋ったんだ?


>先生は多くの命をこれから救うと思います。

 だから教えたんです。


>・・・?


>私の名前を知るときっと後悔すると思いました。

 

>後悔なんてするものか!

 君の名前を知れて本当に良かったと思うよ!


それきり連絡はなかった。

珍しい名字と名前だったので特定するのは難しくない。



必ずやこのお礼を伝えようと決心した時、テレビから緊急ニュースが流れた。


『緊急ニュースです。退院したばかりの患者が、

 刃物を振り回して通行人を斬りつける事件が発生しました。

 なお、犯人は確保されており、被害者1名の死亡が確認されています』


テレビに映し出されたのは、未来の技術で救った患者の顔。

そして。被害者のテロップが表示された。


死亡:医学生 小早川美鈴さん

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