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桃はポッドを使い、学校の屋上にワープした。開け方は知っている、竜真がそうしているのを陰で見ていた。職員室に向かい、名簿から「北条美香」を見つける。「ミカ」と呼ばれる少女だろう、そう確信した桃は彼女のクラスへと駆けていった。

どこの部屋もーー当然ではあるが--もぬけの殻で、桃の足音が響き、余韻が長く残っていた。

目当てのクラスに着くとすかさず机から北条美香の手紙がないか探した。30もある机を1つ1つ調べるが、教科書が詰まっているもの、ご飯の残りが詰まっているものが散見された。たまに見るなにも入っていない机を見たとき桃はホッとしていた。

「あった!」

可愛らしい封筒に「マミへ」と書かれた手紙を見つけた。


俺たちはというと三笹木の家に着き、三笹木は上がって、と俺を部屋に迎えた。

部屋はこじんまりとしているが綺麗に片付いていた。机の引き出しからなにかの箱を取り出し、中身を覗くと手紙が何通か入っている。

「これが、ミカのくれた手紙です」

一枚一枚手に取って見ると綺麗に折りたたまれた手紙と、裏には「北条美香」と書かれていた。

「読んでもいいか」

三笹木は縦に首を振った。俺は手紙を読み進める。勉強のこと、学校のこと、そして三笹木に戻ってきてほしい謝罪の内容が綴られている。それも全ての手紙に。

「ミカってのは、お前を心配していたのか」

「え?」

「きっと、いや正確なことはわかんないけどよ。ミカは、手紙でお前が本当に戻ってくると思ってたんじゃねぇか」

「それは…私が手紙を読まないで、ミカを受け入れられなかったから」

「今はどうだ?…ちゃんと、お前の気持ちも伝えられるのか」

きっとお互いに言えなかった。口で言えなかったからすれ違ってしまった。ちゃんと言えていたら、引きこもることも、手紙を送ることも互いになかったはずだ。

「私、ミカに言わなきゃ」

「ああ!勇気は無限の未来だぜ!」

「なんですか、それ」

俺は手で無限大の形を作った。それを見ると三笹木は失笑し、はじめての笑顔を浮かべた。

きっと相手がゲネミーでも会話はできるはずだ。言葉はミカに届く。

ウィンウィンとゲーミングライザーが音を立てる。鳴り止まない音に焦り始めると「ここ、押すんじゃないですか」と三笹木が指をさしたところを押してみる。

『あ、繋がったわね』

「桃じゃねぇか、なんだこの機能」

『そんなことより、そこから近い大橋の下にゲネミーがいるわ』

「大橋…そこ、私がいつも時間をつぶしてたところです!あれ、さっきの公園そういえば…」

『ゲネミーは三笹木さんの行った場所をつぶして回ってるみたい。そう手紙の内容通り」

どういうことだ、そう聞きたがったが俺は通信を切り、三笹木を連れて現場に向かった。


大橋に向かう途中逃げる人々とすれ違った。俺たちは流れに逆らってゲネミーの元へ向かった。

ゲネミー・ユーフォーガスの周りは人がおらず、一体で暴れまわっている。

「ミカー!!」

拳を震わせてゲネミーの元へ走ったのは三笹木だ。彼女は俺の制止を振り切るのに必死だった。

「ミカー!あなたなんでしょ!」

ユーフォーガスは三笹木を向くと、動きを止めた。

「私!ずっとあなたに言いたかった!強く言ってごめん!うまく気持ち伝えられなくてごめん!」

彼女は涙袋いっぱいに言葉を続ける。ユーフォーガスが急接近し三笹木を狙っている。

「リアライズ!!」

俺はすかさず変身し、一瞬にしてユーフォーガスの前に移動した。肩を掴み腹を蹴って三笹木から距離をとらせた。

「三笹木さん!続けて!」

突然の出来事に困惑する三笹木と、それ煽るのは桃だった。三笹木は眉間に力を入れて腰をあげた。

「ミカ!周りと仲良くなれなくてごめん、だからミカにずっと頼りっきりで、迷惑かけてた!この事件が終わったら、また、また学校に行く!一緒に登校しよう!」

三笹木の拳はすでに震えが止まっている。思いの丈を強く解き放った。しかし、ユーフォーガスは錯乱し暴れ始めてしまう。俺は振りほどかれ一撃を受けてしまった。

ただでさえ隙のない相手だ、また逃げられてしまうかもしれない。と窮地に立たされているところに見慣れたゲネミーがユーフォーガスの攻撃を受け止めた。

「あれは…グラディエータウロス!」

桃の言う通り、俺が褒めちぎって照れていたゲネミー・グラディエータウロス(赤)だった。俺の方を向き、じっと見つめている。俺はこいつに手をかざすとみるみる縮小し、ゲーム『グラディエータウロス』のカセットになった。

「バトルカセットに変形したって言うの…ヴァーサス!そのカセットに交換して!」

桃の言う通り俺はゲーミングライザーにカセットを入れ、スイッチを作動させた。

グラディエータウロスのフォルムが両肩に、左手には装甲の厚い黒いビームガンを持っていた。

『バージョン:メカニック!ヴァーサス!』とゲーミングライザーが鳴り響き、俺はユーフォーガスに2発撃ちこんだ。ユーフォーガスは勢いよく後方に飛び体勢をゆっくり戻した。

新しい力…勝てるかもしれない。

ユーフォーガスは距離を詰めてくる。俺は足元に数発牽制し、たまらず放たれた胞子ミサイル攻撃も丁寧に撃ち落とすと、ユーフォーガスは距離をとって逃げようとする。俺はビームガンを左腕に装着し、ユーフォーガスに狙いを定める。

桃が声を大にして叫んだ。三笹木は祈りながら目を瞑っている。

俺はビームガンに「バトルファイター・VS」のカセットを入れ、電気を纏うその拳を構えた。ユーフォーガスの背後に急接近し、左腕から放出された雷はユーフォーガスを貫いた。

轟々と燃え上がり、ついに本体は一つのカセットになってその場に落ちた。

「ミカ…」とか細い声でその場に座り込んでしまう

そっと手を肩に置いて、桃は一枚の手紙を渡す。

「ミカさんが机に残した手紙。読んでみて」

三笹木は桃から手紙を受け取り、一枚一枚読み続けた。

俺はこっそり変身を解除して2人の元に駆け寄った。そこにはポロポロと泣きじゃくる1人の少女と、桃がいた。

「私のため、だったん、ですね」

「『また、一緒に学校行きたい。それが私の、1番の夢だよ』」

おそらく手紙の内容を言ったのだろう。桃はずっと三笹木を見つめていた。

「学校に来るにはどうしたらいいかわからなくなってしまった。そんな彼女の夢を操って、三笹木さんの居場所を壊させた」

「でも、それはやっぱり、ミカの願いだったんですよね…」

そうね。と桃は顔を背けず、小さく話した。

「ミカは、いつも私のことを思ってて…くれたんですね」

手紙がしわくちゃになるほど抱きしめていた。

この光景はあとどれ程見るのだろう。自分の弱さで、誰も救えない光景。

攫われた人の数だけ、また戦わなければならない。

俺はゲーミングライザーとカセットを見つめながら沈黙していた。


「先程はありがとうございました」

三笹木は自宅の前で深々と頭を下げた。

「よしてくれよ、俺はただ付き添っただけで」

「桃さんとヒーローさんには特に感謝です」

「私もなにも…」

照れくさそうに桃はそっぽを向いていた。案外可愛げがあるのな。

三笹木にはどうやらバレていなかったらしい。不幸中の幸いというか、とにかくホッとした。

「あのヒーローさんにもご挨拶がしたかったんですけど、どこかに行ってしまいましたし」

「そのうち会えると思う…よ」

桃はが隣で「他言無用」と睨みを利かせていた。顔に書いてあるから、その顔をやめてくれ。

「そういえば、竜真さんはあの怪物とヒーローが戦ってる間、なにされてたんですか」

「え?!俺は、怪物見てテンパっちゃって、腰を抜かしてたり…してなかったり」

「はぁ…へっぴり腰なんですね」

なんと!そうなるのか…少しショックだった。正体を明かさないというのはここまでも過酷なのか。

「ミカさんのことは私たちが調べるわ。申し訳ないのだけど…」

「はい。一任します。引きこもりの私じゃ、あんな怪物にも桃さんの力にもなれそうにないですから」

三笹木は「どうかミカをよろしくお願いします」とまた深々としたお辞儀をした。

閑散とした広い道路を歩き始め、三笹木と別れた。

数分歩いたところで桃が口を開いた。

「念を入れて言うけど…」

「あーわかった。バレるなってことだろ?」

口調と顔つきでなにを言うのか察して口を挟んだ。

「まあ、そういうことなんだけど」

合ってたらしく、少しふてくされている顔になった。

「それともう一つ。ゲネミーは人の夢から生まれるのよ」

「人の夢?」

「そう、夢。運命に逆らわなければ叶えられないもの」

「そんな大事か?夢は夢だろう」

呆れながらも真剣に話している桃の目を見逃さなかった。

「だから無理やり叶えさせようとするとゲネミーとなって生まれてしまう。本人はまだ夢の中なのに」

「ゲネミーが夢を叶えたらどうなるんだ」

「…夢の所有者は、夢を見れなくなる」

「夢を、見れない?」

立ち止まったのに気づき、桃は歩みを止め俺の方へ振り返った。

「目標でも欲望でも、その延長は夢になるの。それがなくなるっていうのは、空っぽの人になるってことよ」

再び歩き始めると俺たちはポッドを隠してあった雑木林に到着した。

「空っぽって…というかなんでそんなに詳しいんだよ」

「詳しい人に聞いたことがあるだけよ」

「誰だよそいつ」

桃はまたこちらを振り向いて立ち止まった。

「彼らがまた動き出したら、戦わなきゃいけない…」

瞳が俺を捉えている。期待と哀れみが込められているような、そんな感じがした。

「あなたは、戦うの?」

「俺は…」

握り拳を見つめ、顔を上げた。ゲーミングライザーを桃に見せ話を続けた。

「俺は自分の夢を見つけた。これに誓ったんだ。ゲネミーが人の夢を勝手に使う敵っていうんなら倒してやる。俺のゲームは止められねぇ!」

「…そう」

俺は左手を前に出して握手を求めたが、桃はスルーしてポッドの操作を始めた。


ユーフォーガスの残骸は川に落ち、川下へと流れていく。それを拾い上げた白衣の男はぽつりと呟いた。

「興味深い。この街は僕の知らない世界を与えてくれる…」

男は砂のように消えていく破片に心馳せていた。

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ゲームバトラー・ヴァーサス 黒木耀介 @koriy_make

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