敵意のブルー

 

 翌日、午前中は死んだようにぼんやりと過ごし、 赤くなった目の腫れが引いてきた午後、ソフィアはノックの音で我に返った。


 ドアを開けると、そこには満面の笑みを浮かべたアンナが居た。


「お姉さま、庭園のロベリアが綺麗に咲いているの!一緒にティータイムはいかがかしら?」


  有無を言わさず連れてこられた庭園は、昨日の光景が嫌でも思い浮かぶようで居心地が悪かった。


「クロード様って本当に素敵なの、近くで見ると本当に格好良くて!」


  アンナは先程からずっとクロードについて惚気けてばかり。


 この調子で続けられてはソフィアは完全に参ってしまいそうだ。


「あんなに女の子達から好かれていても普段見向きもしないの。でもね、私の事は大事って言ってくれた、浮気なんて絶対しそうにないわ」


  そこでアンナは言葉を切ってから、ブラウンの目を細めてこちらを見遣る。


「結婚するなら自分だけを見ていてくれる人がいいもの。お姉さまのお相手はどうなのかしら」


  甘ったるい声でねっとりと言われて、ソフィアの背中を悪寒が走る。


「結婚後は私達とお姉さま夫婦でずっと仲良く出来たら楽しいわね」


  冗談じゃない。


 クロードとアンナが仲睦まじくしているのを一生側で見ていろというのか。


 ソフィアはテーブルの下で手を握りこんで声を上げたいのを我慢する。


 そこでアンナは嫌らしくソフィアを見回してから、ゆっくり口を開いた。


「外に出る数が減ればいい男と知り合う機会も奪えると思ったのに。どうせ顔にほだされたんだから、あんたなんかすぐ飽きられるわよ」


  ソフィアは驚きのあまりカップを落としそうになり、慌ててテーブルに戻す。


 どうしたというのか。

 アンナは普段このように直接的な暴言を履いたことなどないのだ。


「いつもそうよね。あからさまに虐めると、あんたを好きな男が私を嫌うの。それも一人や二人じゃないわ。ちょっと顔がいいからって何もしなくても皆ちやほやしてくれる。でもね、今回手にするのは私。これから幸せになるのも私。勝つのは私!」


  最後の方は叫ぶ様に言ってから、アンナは立ち上がる。


 テーブルに手を付いて、ソフィアに触れるくらいまで顔を近付けてから、今まで見た中で最高の笑みを浮かべて言った。


「お姉さまの幸せは、私が潰してあげるわ。これから先もずーっとね」

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