第5話 償い


 「これはカラミティ利用者の私刑なんかじゃない。もっと別の理由があって、太刀川正義は殺されたんだ」

 「うん?」

 「まずここを見てほしい。カラミティでの閲覧数122。喫煙動画は一般の動画投稿サイトは閲覧259。少なすぎる。これを見たわずかな人間のうち、誰が私刑しにいくっていうんだ」

 

 善はスマホを提示してまず閲覧数を見せる。この数値は、ちょっとした田舎である事を考慮してもかなり低いだろう。例を出すなら○△市に現れた露出狂目撃情報閲覧数が2689。中学校のイジメでは5931。それらと比べれば喫煙なんて明らかに○△市内での関心は薄い。

 

 「私刑を企てる人間はわかりやすく凶悪で、でもなんとか倒せそうなやつを集団で狙う。こんな田舎の、未成年喫煙なんて狙うはずがない」

 

 だからカラミティは関係がない事件。善はそう言いたいのだろうが、刑事さんはそんな事は気付いていたはずだ。それでも動かなければいけない場面がある。私はやっと口を挟むことにした。

 

 「私が善に投稿者など詳細な情報を出させます。刑事さん、それでいいですか?」

 「あ、ああ。そうしてもらいたい。助かるよ、君はまだ話がわかるようだ」

 

 刑事さんと善の担任は私の言葉にやっと安心した。警察がまずやりたいのは『カラミティの管理者権限で得られる情報を善から得ること』。そしてできれば『カラミティという争いしか生まれないような私刑アプリを停止させること』。

 対して善のやりたい事といえば 『カラミティが世界を平和にすると証明すること』なので、これではいつまで経っても話はまとまらない。だから私がまとめてやった。善は不満そうだが、彼の言葉は絶対に刑事さんには響かない。

 

 「では、今回はこれで失礼します。地獄森君。今回我々はカラミティを放置する事になったが、いつか未成年の君には償いきれないような事態になること、忘れないでくれ」

 

 担任はぺこぺこと頭を下げ、刑事さんは最後まで善を苛立たせるような事をいう。負いきれない責任。確かにカラミティによる私刑が原因で誰かが死んだら、追い詰められて自殺をする人がいたら、善のせいと言う人もいるかもしれない。こんな事ばかり起こり続ければいつかカラミティは強制的に停止するだろう。

 

 「人を傷付けるなんて事、大人だって償えないだろうに」

 

 刑事さんが撤収した職員室で善は小さく呟いた。

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